2.4 体組成

体組成とは、体重を構成する成分(脂肪、筋肉、骨、水分など)の割合である。同じ体重でも体組成によって健康リスクは大きく異なる。本章では、体組成の概念、測定法、健康指標としての意義を解説する。

最終更新:2025年1月

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1. 体組成の構成要素

1.1 2成分モデル

最も単純な体組成モデルは、体重を脂肪量(Fat Mass: FM)と除脂肪体重(Fat-Free Mass: FFM、またはLean Body Mass: LBM)に分ける2成分モデルである [1]。

2成分モデル
体重 = 脂肪量(FM)+ 除脂肪体重(FFM)

除脂肪体重には、筋肉、骨、内臓、水分など脂肪以外のすべての組織が含まれる。

1.2 4成分モデル

より精密な体組成評価には、4成分モデルが用いられる [2]。

成分 割合(成人男性目安) 特徴
水分 約60% 細胞内液・細胞外液、水和状態で変動
タンパク質 約16% 主に筋肉、臓器
ミネラル 約6% 主に骨
脂肪 約15-20% 貯蔵脂肪、必須脂肪

1.3 体脂肪の分類

体脂肪は機能的に以下のように分類される [3]。

  • 必須脂肪:細胞膜、神経系、臓器の保護に不可欠。男性約3%、女性約12%
  • 貯蔵脂肪:エネルギー貯蔵として皮下・内臓に蓄積。過剰蓄積が肥満

女性の必須脂肪が高いのは、性ホルモン産生、妊娠・授乳への備えによる。

2. 測定法

2.1 測定法の比較

方法 精度 コスト 利用場面
DXA 研究、臨床(ゴールドスタンダード)
水中体重測定 研究
空気置換法(BOD POD) 研究、スポーツ
BIA(生体電気インピーダンス) 一般、フィットネス
皮下脂肪厚測定 フィールド調査

2.2 DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)

DXA(Dual-energy X-ray Absorptiometry)は、2種類のエネルギーのX線を照射し、組織ごとの吸収差から体組成を算出する方法である。脂肪、除脂肪軟組織、骨塩量の3成分を区別でき、部位別の評価も可能である [4]。

被曝量は非常に低く(胸部X線の1/10以下)、精度・再現性ともに高いため、研究・臨床のゴールドスタンダードとされる。

2.3 BIA(生体電気インピーダンス法)

BIAは、微弱な電流を体に流し、その抵抗(インピーダンス)から体組成を推定する方法である。脂肪組織は水分が少なく電気抵抗が高いのに対し、筋肉は水分が多く電気抵抗が低いことを利用する [5]。

家庭用体組成計の多くはBIA方式である。手軽で非侵襲だが、水分状態、食事、運動などの影響を受けやすい。測定条件を一定にすることで、経時的変化のモニタリングには有用である。

BIA測定のベストプラクティスは以下の通りである。

  • 起床後、排尿後に測定
  • 食事・運動の2時間以上後
  • 毎回同じ条件で測定
  • 月経周期による変動を考慮(女性)

2.4 皮下脂肪厚測定

キャリパー(皮脂厚計)を用いて、特定部位の皮下脂肪厚を測定する方法である。複数部位の測定値から推定式を用いて体脂肪率を算出する。低コストで簡便だが、測定者の技術に依存し、内臓脂肪は評価できない [6]。

3. BMIとその限界

3.1 BMIの定義

BMI(Body Mass Index)は、体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値であり、肥満度の指標として広く使用されている [7]。

BMIの計算式
BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)²
分類 BMI(WHO基準) BMI(日本肥満学会)
低体重 <18.5 <18.5
普通体重 18.5-24.9 18.5-24.9
過体重/肥満(1度) 25-29.9 25-29.9
肥満(2度以上) ≥30 ≥30

日本では、BMI 22が統計的に最も疾病リスクが低いとされ、「標準体重」の基準となっている。

3.2 BMIの限界

BMIは簡便な指標だが、以下の限界がある [8]。

  • 体組成を反映しない:筋肉量が多いアスリートは「肥満」と判定されうる
  • 脂肪分布を反映しない:内臓脂肪型か皮下脂肪型かを区別できない
  • 年齢・性別の影響:同じBMIでも加齢とともに体脂肪率は上昇
  • 民族差:アジア人は同BMIでも体脂肪率が高い傾向

「隠れ肥満」(BMI正常だが体脂肪率が高い)や「metabolically healthy obesity」(BMI高値だが代謝的に健康)の存在は、BMIの限界を示している。

3.3 体脂肪率の基準

分類 男性 女性
必須脂肪 2-5% 10-13%
アスリート 6-13% 14-20%
フィットネス 14-17% 21-24%
標準 18-24% 25-31%
肥満 ≥25% ≥32%

4. 脂肪分布

4.1 内臓脂肪と皮下脂肪

体脂肪の分布は、総量と同等以上に健康リスクに影響する。脂肪は主に皮下脂肪と内臓脂肪に分類される [9]。

特徴 皮下脂肪 内臓脂肪
部位 皮膚の下(全身) 腹腔内(臓器周囲)
代謝活性 低い 高い
健康リスク 比較的低い 高い
性差 女性に多い 男性に多い
減量への反応 減りにくい 減りやすい

4.2 内臓脂肪の病態生理

内臓脂肪は代謝的に活発で、以下のメカニズムにより全身の代謝に悪影響を与える [10]。

  • 遊離脂肪酸(FFA):門脈を通じて肝臓に直接流入し、インスリン抵抗性、脂肪肝を誘発
  • 炎症性サイトカイン:TNF-α、IL-6などを分泌し、全身性の慢性炎症を惹起
  • アディポカイン異常:アディポネクチン(抗炎症)低下、レプチン抵抗性

内臓脂肪蓄積は、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、心血管疾患のリスク因子である。

4.3 腹囲(ウエスト周囲径)

腹囲は内臓脂肪の簡便な指標である。日本のメタボリックシンドローム診断基準では、男性85cm以上、女性90cm以上を腹部肥満としている [11]。

ウエスト/ヒップ比(WHR)やウエスト/身長比(WHtR)も脂肪分布の指標として用いられる。WHtR < 0.5が健康的な目安とされる。

4.4 異所性脂肪

異所性脂肪(Ectopic Fat)は、脂肪組織以外の臓器(肝臓、筋肉、膵臓など)に蓄積した脂肪である。皮下脂肪の貯蔵容量を超えた場合に生じ、臓器機能障害を引き起こす [12]。

  • 肝臓(脂肪肝):インスリン抵抗性、NAFLD/NASH
  • 筋肉(筋内脂肪):インスリン抵抗性、筋機能低下
  • 膵臓:β細胞機能障害

5. 筋肉量と健康

5.1 骨格筋の機能

骨格筋は運動器官であるだけでなく、代謝器官としても重要な役割を果たす [13]。

  • グルコース処理:食後のグルコース取り込みの約80%を担う
  • 基礎代謝:安静時エネルギー消費の約20%を占める
  • タンパク質貯蔵:絶食時にアミノ酸を動員
  • マイオカイン分泌:運動により抗炎症性サイトカインを分泌

5.2 サルコペニア

サルコペニア(Sarcopenia)は、加齢に伴う筋肉量および筋力の低下を指す。40歳以降、筋肉量は10年ごとに約8%ずつ減少するとされる [14]。

サルコペニアは以下と関連する。

  • 転倒・骨折リスクの増加
  • 日常生活動作(ADL)の低下
  • インスリン抵抗性
  • 基礎代謝の低下
  • 死亡リスクの上昇

5.3 サルコペニア肥満

サルコペニア肥満は、筋肉量減少と脂肪量増加が同時に生じた状態である。体重変化が軽微でも体組成が大きく悪化していることがあり、代謝リスクは単独の肥満やサルコペニアより高い [15]。

高齢者の「体重は変わらないが動けなくなった」という訴えの背景には、このサルコペニア肥満が存在することがある。

5.4 筋肉量の維持・増加

筋肉量を維持・増加させるための主要な介入は以下である。

  • レジスタンス運動:最も効果的な刺激。週2-3回、主要筋群を含む
  • タンパク質摂取:体重1kgあたり1.2-1.6g/日。運動後の摂取が効果的
  • ロイシン:必須アミノ酸の中で特に筋タンパク合成を刺激
  • ビタミンD:筋機能維持に関与。欠乏を避ける

6. 体組成の管理

6.1 体重 vs 体組成

健康管理の目標は「体重減少」ではなく「体組成の改善」(脂肪減少+筋肉維持/増加)であるべきである。急激なカロリー制限は、脂肪だけでなく筋肉も減少させ、代謝を低下させてリバウンドの原因となる [16]。

体重が同じでも、体脂肪率が低く筋肉量が多い方が、代謝的に健康であり、身体機能も高い。

6.2 リコンポジション

リコンポジション(体組成改善)は、脂肪を減らしながら筋肉を増やす(または維持する)アプローチである。体重変化は緩やかでも、体組成は大きく改善しうる [17]。

リコンポジションを達成するためには以下が重要である。

  • 適度なカロリー欠損:極端な制限を避ける(-500kcal/日程度)
  • 高タンパク質摂取:筋肉の異化を防ぐ
  • レジスタンス運動:筋肉への刺激を維持
  • 十分な睡眠:回復と同化ホルモン分泌

6.3 モニタリングの実践

体組成管理では、複数の指標を組み合わせてモニタリングすることが推奨される。

  • 体重:毎日同条件で測定、週平均で評価
  • 体組成計:週1回、同条件で測定
  • 腹囲:月1回、起床後に測定
  • 写真記録:月1回、同条件で撮影
  • 筋力・パフォーマンス:定期的に記録

短期的な変動(水分、食事内容、月経周期など)に一喜一憂せず、長期的なトレンドを重視することが重要である。

7. 参考文献

  1. [1] Heymsfield SB, et al. Human Body Composition. 2nd ed. Human Kinetics; 2005.
  2. [2] Wang ZM, et al. The five-level model: a new approach to organizing body-composition research. Am J Clin Nutr. 1992;56(1):19-28.
  3. [3] Lohman TG, et al. Body composition assessment in American Indian children. Am J Clin Nutr. 1999;69(4 Suppl):764S-769S.
  4. [4] Shepherd JA, et al. Body composition by DXA. Bone. 2017;104:101-105.
  5. [5] Kyle UG, et al. Bioelectrical impedance analysis—part I: review of principles and methods. Clin Nutr. 2004;23(5):1226-1243.
  6. [6] Durnin JV, Womersley J. Body fat assessed from total body density and its estimation from skinfold thickness. Br J Nutr. 1974;32(1):77-97.
  7. [7] World Health Organization. Obesity: preventing and managing the global epidemic. WHO Technical Report Series 894. 2000.
  8. [8] Rothman KJ. BMI-related errors in the measurement of obesity. Int J Obes (Lond). 2008;32 Suppl 3:S56-59.
  9. [9] Ibrahim MM. Subcutaneous and visceral adipose tissue: structural and functional differences. Obes Rev. 2010;11(1):11-18.
  10. [10] Després JP, Lemieux I. Abdominal obesity and metabolic syndrome. Nature. 2006;444(7121):881-887.
  11. [11] 日本内科学会. メタボリックシンドローム診断基準. 2005.
  12. [12] Shulman GI. Ectopic fat in insulin resistance, dyslipidemia, and cardiometabolic disease. N Engl J Med. 2014;371(12):1131-1141.
  13. [13] DeFronzo RA, Tripathy D. Skeletal muscle insulin resistance is the primary defect in type 2 diabetes. Diabetes Care. 2009;32 Suppl 2:S157-163.
  14. [14] Cruz-Jentoft AJ, et al. Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age Ageing. 2019;48(1):16-31.
  15. [15] Batsis JA, Villareal DT. Sarcopenic obesity in older adults: aetiology, epidemiology and treatment strategies. Nat Rev Endocrinol. 2018;14(9):513-537.
  16. [16] Chaston TB, et al. Changes in fat-free mass during significant weight loss: a systematic review. Int J Obes (Lond). 2007;31(5):743-750.
  17. [17] Barakat C, et al. Body Recomposition: Can Trained Individuals Build Muscle and Lose Fat at the Same Time? Strength Cond J. 2020;42(5):7-21.