本コンテンツについて
これはWEBエンジニアが情報数学を学ぶ過程で作成した学習ノートです。概念の直感的理解を重視しており、数学的厳密性を犠牲にしている箇所があります。正確な定義や証明は、各ページ末尾の参考文献をご参照ください。
プログラミングは、突き詰めれば数学の応用である。if文は論理学、配列操作は集合論、ループは漸化式、機械学習は線形代数と確率統計。私たちが日々書いているコードの背後には、何世紀にもわたって蓄積された数学的概念が横たわっている。
もちろん、数学を意識しなくてもコードは書ける。フレームワークやライブラリが複雑な計算を隠蔽してくれるからだ。しかし、ある地点を超えると、その隠蔽された部分が問題の核心になる。パフォーマンスの壁、アルゴリズムの選択、AIモデルの挙動理解。そこで必要になるのが、数学という「共通言語」である。
このコンテンツの構成本コンテンツは、WEBアプリケーション開発とAI/機械学習の両方で使われる数学を扱う。各章は「ナレーション」から始まり、なぜその数学が存在し、どこで使われるのかを語る。続いて「本論」で正確な概念と用語を整理し、「実務接点」でWEB開発とAI開発それぞれでの応用場面を示す。最後に「深掘り」で、さらに学びたい人への道を示す。
目標は、概念を理解し、用語を知り、必要なときに自分で調べられるようになること。数式の導出や証明は最小限にとどめ、「何のために存在するのか」を重視する。
各章の概要第1章「論理・集合」では、コンピュータの思考の基盤を扱う。AND/OR/NOTのブール代数、集合演算とSQLの対応、述語論理の基礎。「はい」か「いいえ」の組み合わせで、複雑な判断がどう実現されるのか。
第2章「数と計算」では、コンピュータが扱う数の種類と限界を扱う。剰余演算(mod)はページネーションからハッシュまで、基数変換は16進カラーコードからBase64まで。浮動小数点の罠を知れば、不思議なバグの原因が見えてくる。
第3章「関数と写像」では、入力と出力の関係を数学的に捉える。map/filter/reduceが便利な理由、活性化関数が必要な理由が、写像の性質から理解できる。
第4章「線形代数」では、AIの「思考」の言語を扱う。言葉も画像も、すべてベクトルに変換される。ベクトル同士の距離を測り、行列で変換し、高次元空間で操作する。現代AIの核心がここにある。
第5章「微分・最適化」では、AIの「学習」の仕組みを扱う。「少し変えたら結果がどれだけ変わるか」を測る微分。その微分を使って、間違いが最も減る方向にパラメータを動かす勾配降下法。単純なアイデアが、巨大なニューラルネットワークを訓練する。
第6章「確率・統計」では、不確実性の数学を扱う。A/Bテストの有意差判定、ベイズ推論による信念の更新。データに騙されないための基礎がここにある。
第7章「情報理論」では、「情報とは何か」を扱う。シャノンのエントロピーから、機械学習の損失関数である交差エントロピーまで。データ圧縮もAIの訓練も、同じ理論的基盤の上にある。
第8章「グラフ・離散」では、関係性の数学を扱う。SNSの友達関係、Webページのリンク、分子の構造。すべて「点と線」で表現できる。Graph Neural Networkは、この構造を学習するAIの最前線である。
読み方のヒント最初から順番に読む必要はない。今の仕事で必要な章から始めてもよいし、興味を引かれた章から読んでもよい。ただし、第4章以降は前の章の概念を前提とする場面がある。迷ったら、第1章から第3章を先に目を通しておくことを勧める。
数学は積み重ねの学問である。一度で理解できなくても、時間をおいて戻ってくると見え方が変わっていることがある。焦らず、繰り返し、少しずつ進んでほしい。