AIが「理解」しているのは、すべて数値の配列。言葉も画像も、ベクトルという矢印に変換される。ベクトル同士の近さを測り、方向を比較し、高次元空間で操作する。線形代数は、AIの「思考」の言語そのものである。

ベクトル スカラー 内積 ノルム コサイン類似度

ベクトルとは

ベクトル(Vector)

大きさと方向を持つ量。数学的には、順序付けられた数の組(配列)。

v = (v₁, v₂, ..., vₙ) または列ベクトルとして表記。

n次元ベクトル空間 ℝⁿ の要素。

プログラミングでは配列やリストとして表現される。[1, 2, 3] は3次元ベクトル。

基本演算

スカラー倍

ベクトルの各成分に同じ数(スカラー)を掛ける。

2 × (1, 2, 3) = (2, 4, 6)

ベクトルの長さが変わる(方向は同じか逆)。

ベクトルの和

対応する成分同士を足す。

(1, 2) + (3, 4) = (4, 6)

ノルム(大きさ)

ノルム(Norm)

ベクトルの「大きさ」を測る関数。

L2ノルム(ユークリッドノルム):||v|| = √(v₁² + v₂² + ... + vₙ²)

L1ノルム(マンハッタン距離):||v||₁ = |v₁| + |v₂| + ... + |vₙ|

内積

内積(Dot Product / Inner Product)

a · b = a₁b₁ + a₂b₂ + ... + aₙbₙ

または a · b = ||a|| ||b|| cos θ

θはベクトル間の角度。

結果はスカラー(1つの数値)。

内積の意味:

内積の値 角度 意味
正(大きい) 鋭角(近い) 同じ方向
0 直角(90°) 直交(無関係)
鈍角(遠い) 反対方向

コサイン類似度

コサイン類似度(Cosine Similarity)

cos θ = (a · b) / (||a|| ||b||)

-1 〜 1 の値を取る。

1: 完全に同じ方向、0: 直交、-1: 完全に逆方向

コサイン類似度は、ベクトルの大きさに依存せず、方向だけを比較する。文書やユーザーの類似度計算でよく使われる。

実務での応用

WEB開発での応用

2D/3D座標:位置、速度、加速度はベクトル。ゲーム開発の基礎。

カラー空間:RGB = 3次元ベクトル。色の距離を計算可能。

レコメンデーション:ユーザーの嗜好ベクトルと商品ベクトルの類似度。

AI/MLでの応用

単語埋め込み(Word Embedding):Word2Vec, GloVe。「王 - 男 + 女 = 女王」のベクトル演算。

画像ベクトル:画像を固定長ベクトルに変換。類似画像検索。

特徴量ベクトル:機械学習の入力はすべてベクトル化される。

埋め込み空間:意味的に近いものが近くに配置される高次元空間。

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