Devin徹底解説|世界初の完全自律型AIソフトウェアエンジニアの全貌

Devin徹底解説|世界初の完全自律型AIソフトウェアエンジニアの全貌

更新日:2025年11月30日

2024年3月に発表され、ソフトウェア開発の世界に衝撃を与えた「Devin」。従来のAIコーディングツールとは一線を画す「完全自律型AIソフトウェアエンジニア」として、開発現場のあり方を根本から変える可能性を秘めています。2025年4月にはDevin 2.0がリリースされ、月額20ドルからという手頃な価格設定と大幅な機能強化が実現しました。本記事では、Devinの基本概念から技術的特徴、料金体系、実際の活用事例、そして効果的な使い方まで、個人的に調査・整理した内容をお伝えします。AIコーディングツールの導入を検討されている方や、Devinに関心をお持ちの方の参考になれば幸いです。
Devin徹底解説|世界初の完全自律型AIソフトウェアエンジニアの全貌

Devinとは何か:基本概念と開発背景

Devinは、米国サンフランシスコに本社を置くCognition AI社(通称Cognition Labs)が開発した、世界初の完全自律型AIソフトウェアエンジニアです。従来のGitHub CopilotやAmazon CodeWhispererといったAIコーディングツールが「開発者の隣でコード補完をするアシスタント」であるのに対し、Devinは「開発者の代わりにタスクを計画し、実行してくれる自律エージェント」として位置づけられています。

Cognition AIと創業者たち

Cognition AIは2023年8月、Scott Wu氏、Steven Hao氏、Walden Yan氏の3名によって設立されました。3人全員が国際情報オリンピック(IOI)の金メダリストという、世界トップクラスの競技プログラマーです。CEOのScott Wu氏は1996年生まれで、9歳でプログラミングを始め、IOIで3年連続金メダルを獲得。ハーバード大学在学中にはICPC(国際大学対抗プログラミングコンテスト)で世界3位を記録し、プログラミングプラットフォーム「Codeforces」では「伝説のグランドマスター」の称号を獲得しています。

Cognition AIの特異な人材構成
2024年3月時点で10人のチームメンバーが合計10個のIOI金メダルを保有。Gennady Korotkevich氏やAndrew He氏など、世界的に著名な競技プログラマーも在籍しています。Scott Wu氏は「AIにプログラミングを教えることは非常に深遠なアルゴリズムの問題であり、この競技プログラミングの経験がDevin開発の強みになった」と語っています。

興味深いことに、Cognition AIは当初暗号通貨分野にフォーカスしていましたが、ChatGPTの登場をきっかけにAI分野へシフト。2024年3月にDevinのデモを公開すると、X(旧Twitter)で2.2万リポスト、4.4万いいねを獲得する大反響を呼びました。

従来のAIツールとの決定的な違い

Devinが従来のAIコーディングツールと根本的に異なるのは、その「自律性」にあります。GitHub Copilotなどは開発者がコードを書く際に提案を行う「アシスタント」として機能しますが、Devinは指示を受けた後、自律的に作業を進める「エージェント」として動作します。

比較項目 GitHub Copilot等 Devin
役割 コード補完アシスタント 自律型AIエンジニア
動作方式 人間の入力に応じて提案 タスク全体を自律実行
対応範囲 コード記述の支援 計画→実装→テスト→デプロイ
エラー対応 人間が修正 自己修正・自己学習
ツール使用 IDE内で動作 独自のシェル・エディタ・ブラウザ

Devinができること

Devinは、人間のソフトウェアエンジニアが行う多様なタスクを自律的に実行できます。自然言語による一つの指示から、ウェブサイト構築やアプリケーション開発といった複雑なエンジニアリングタスクを最後までやり遂げることが可能です。

具体的には、計画立案(与えられた課題に対しステップバイステップの実行計画を策定)、ツール活用(開発に必要なツールやライブラリを自らインストール・設定)、コーディング(計画に基づきコードを記述)、デバッグ(コード実行時に発生したエラーを分析し自ら修正)、デプロイ(完成したアプリケーションをサーバー等にデプロイ)といった一連の作業を一貫して実行します。

SWE-benchでの評価
Devinの実力は、実際のGitHubリポジトリで発生した問題を解決する能力を測るベンチマーク「SWE-bench」で客観的に示されています。Devinは13.86%の問題を完全に自律的に解決し、これは従来の最高記録であった他のAIモデル(GPT-4で4.8%程度)を大幅に上回る驚異的なスコアでした。人間の介在なしに現実世界の複雑な課題を解決できる能力が証明されたのです。

技術的な仕組み

Devinは独自のコマンドライン、コードエディタ、ブラウザを持ち、人間と同じようにツールを駆使して開発を進めます。未知のエラーに直面すれば、自らインターネットで解決策を調査し、学習して問題を乗り越えることができます。

Devinの動作原理は「ReAct(Reasoning and Acting)フレームワーク」に基づいていると推測されています。これは「思考→行動→観察→再思考」のサイクルを繰り返すアプローチで、ソフトウェア開発のような反復的なタスクに適しています。大規模言語モデルの自然言語理解能力と外部環境との相互作用を組み合わせることで、単純なプロンプトエンジニアリングでは実現できない複雑な問題解決を可能にしています。

さらに特筆すべきは自己ファインチューニング機能で、開発者が特別な処理を行わなくても、Devin自身が追加学習を実行できます。これにより、時間の経過とともに性能が向上し、より複雑なプロジェクトにも対応可能になります。

Devin 2.0の新機能と料金体系

Devinの進化の歴史

2023年8月:Cognition AI設立

2024年3月:Devinデモ公開、大反響を呼ぶ

2024年5月:Microsoftとの提携発表、Azure統合

2024年12月:一般提供開始(月額500ドル)

2025年3月:Devin Search、Devin Wiki機能追加(v1.5)

2025年4月:Devin 2.0リリース、価格を96%削減(月額20ドルから)

2025年9月:約4億ドルの大型資金調達、Windsurf買収

Devin 2.0の革新的な新機能

2025年4月3日にリリースされたDevin 2.0は、「エージェントネイティブIDE」という新しい開発体験を提供します。CEOのScott Wu氏は、Devinのコンセプトを「開発者を強化する(enhancing you)」ではなく「開発者を倍増させる(multiply you)」と表現しています。

エージェントネイティブIDE

クラウドベースのインタラクティブなIDEを通じて、Devinとのリアルタイムな共同作業が可能になりました。各Devinセッションは独立したクラウドベースIDE(VM上で動作)を持ち、開発者は使い慣れたVSCodeライクな環境でDevinと連携できます。Cmd+IやCmd+Kといった馴染みのあるショートカットも使用可能です。

マルチエージェント並列処理

複数のDevinを同時に稼働させ、それぞれに異なるタスクを割り当てることができます。理論上は(コストさえ支払えば)無限にAI開発者を雇うことが可能です。朝一にDevinに作業を依頼し、お昼にDevinの修正を確認・レビューする、といった働き方が実現します。

Interactive Planning(対話型プランニング)

タスクを開始する前に、Devinが自動的にコードベースを調査し、詳細な計画を立案します。ユーザーはこの計画を確認・修正してから実行を開始できるため、意図と異なる作業を防ぐことができます。デフォルトでは30秒間ユーザーの応答を待ち、「Wait for my approval」ボタンで承認待ちにすることも可能です。

Devin Search

コードベースに関する質問を自然言語で行い、詳細な回答を得られる機能です。コードの変更を伴わない調査や質問に特化しており、「Deep Mode」を使用すると、ドキュメントやコメントがないコードでも深く分析して理解できます。

Devin Wiki

リポジトリを自動的にインデックス化し、詳細なWikiを生成します。包括的なアーキテクチャ図、ソースへの直接リンク、ドキュメントなどが自動作成されます。新メンバーのオンボーディングやレガシープロジェクトの理解に非常に有効です。なお、パブリックリポジトリであれば、GitHubのURLの「github.com」を「deepwiki.com」に書き換えるだけで無料で試すことができます。

料金体系の詳細

Devin 2.0では、従来の月額500ドル固定から大幅に改定され、月額20ドルからの従量課金制が導入されました。これは96%の価格削減に相当します。

プラン 月額料金 ACU 主な特徴
Core $20〜(従量課金) 約9 ACU 個人・小規模開発向け、基本機能
Team $500/月 250 ACU含む Slack連携、API利用、サポート付き
Enterprise 要問合せ カスタム 高度なセキュリティ、カスタムDevin
ACU(Agent Compute Unit)とは
Devinの利用時間を管理する単位です。1 ACUはおよそ15分の作業時間に相当し、料金は1 ACUあたり2.25ドルです。したがって、Coreプランの最低料金20ドルで約8.89 ACU(約133分間)のDevin稼働が可能です。時給換算で約10ドル相当となります。タスクの複雑さによって消費ACUは変動しますが、Devin 2.0では従来比で1 ACUあたり約2倍の作業量をこなせるよう効率化されています。

他ツールとの比較

ツール名 月額料金 自律性 特徴
GitHub Copilot $10〜 低い コード補完、IDE統合
Cursor $20〜 低〜中 AIネイティブIDE
Windsurf $15〜 低〜中 初心者向けUI
Claude Code $20〜 中程度 CLI型、大規模文脈処理
OpenAI Codex ChatGPT Plus内 中程度 並列タスク、ブラウザ完結
Devin $20〜 非常に高い 完全自律、計画→実行→修正

Devinの最大の差別化ポイントは「タスク完遂能力」「複数エージェントによる並列処理」「自動ドキュメント生成」といった点にあります。単なるコード補完ではなく、エンドツーエンドで開発タスクを任せられる点が他ツールと一線を画しています。

実践活用法と導入のポイント

大規模導入事例:Nubankの衝撃的な成果

Devinの実力を最も端的に示すのが、ブラジルの大手フィンテック企業Nubankでの導入事例です。同社は8年間運用してきた600万行以上のモノリシックETL(データ抽出・変換・読み込み処理)システムを、サブモジュールに分割する大規模リファクタリングプロジェクトを抱えていました。

当初の見積もりでは、1,000人以上のエンジニアが約10万のデータクラス実装を移行するのに18ヶ月かかる予定でした。しかしDevinを導入した結果、エンジニア時間で8〜12倍の効率改善、コストで20倍以上の削減を達成。Data、Collections、Riskといった事業部門では、数ヶ月〜数年かかる見込みだった移行を数週間で完了させました。

「エンジニアはもう、タスク全体を自分でやる必要がなくなった。Devinが提案してきた変更(PR)を確認して、少し手直ししてマージするだけ。まるで魔法のようだった。」
— Jose Carlos Castro氏(Nubank シニアPM)

Nubankの事例では、過去のエンジニアによる手動移行の実例をDevinに学習させる「ファインチューニング」も実施。これによりタスク完了スコアが2倍、タスク速度が4倍に向上し、サブタスクあたり約40分かかっていた作業が約10分に短縮されました。

Devinが得意なタスク

Devinに任せるべき作業

  • バグ修正:明確なエラーメッセージがある場合、効率的に対応
  • コードリファクタリング:既存コードの構造改善や最適化
  • コード移行・アップグレード:言語やフレームワークの更新作業
  • テストコード作成:単体テストの追加
  • 機能削除:影響範囲が明確で実装パターンが定まりやすい
  • ドキュメント整備:READMEやAPIドキュメントの作成・更新
  • 定型的なCRUD操作の実装:パターン化された機能追加

Devinの現時点での限界

一方で、Devinには現時点で苦手な領域もあります。実際の活用事例からは、大規模システムの文脈理解にはまだ限界がある点、暗黙知(明示的に文書化されていない社内ルールやデザイン規約)への対応が難しい点が報告されています。また、要件が複雑で実装パターンが一つに定まらないタスクでは、意図しないやり方で実装してしまうことがあります。

Devinの能力は「入社したばかりのジュニアエンジニアレベル」と表現されることが多く、100点のPRを作ることもあれば、30点程度の成果物になることもあります。この精度のブレを理解した上で活用することが重要です。

効果的な使い方のコツ

Devin活用のベストプラクティス

  • 小規模タスクから始める:導入直後は既存コードのリファクタリングなど、影響範囲が限定されたタスクで動作を確認
  • 明確で具体的な指示を出す:曖昧さを残すと意図しない実装になりやすい。Few-shotプロンプティング(参考例を提示する方法)が効果的
  • Knowledge機能を活用:繰り返し使う指示はDevinのKnowledge(設定 > Devin's Settings > Knowledge)に登録
  • 必ずレビューを行う:AIの提案を鵜呑みにせず、人間の目でチェック
  • Slack連携を活用:@DevinでSlack上から直接タスクを依頼、進捗確認が可能
  • Interactive Planningで事前確認:作業開始前に計画を確認・修正してから実行

日本語対応について

Devin 2.0では日本語での指示が可能になり、返答も日本語で返ってきます。ただし、UIやドキュメントは基本的に英語で提供されています。日本国内では、DeNA社がCognition AIと提携してDevinの日本市場展開を開始しており、将来的には日本語ドキュメントの充実や日本向けサポート体制の整備が進む可能性があります。

導入時の注意点

Devinに限らず、AIコーディングツール市場は変化が激しいため、年額一括契約よりも月額プランでの導入を推奨します。実際に、ある企業がDevinを導入した翌日にOpenAI Codexがリリースされたという事例もあります。

また、生成されたコードは必ずレビューを行い、ハルシネーション(AIによる誤った情報生成)の確認が必須です。セキュリティ面では、ソースコードやAPIキーがAIサービスに送信されるリスクにも注意が必要です。

今後の展望

Cognition AIは2025年9月に約4億ドルの大型資金調達を実施し、AIコーディングエージェント分野で攻勢を強めています。特に注目すべきは、AIコード補助IDE「Windsurf」の買収です。開発者がAIエージェント(Devin)とAIアシスタント(Windsurf)の双方を活用できる統合環境を提供していく方針が示されています。

Scott Wu氏は「ソフトウェアエンジニアリングの90%は単調な作業に費やされており、Devinはその90%を引き受け、エンジニアが本当にやりたい10%に集中できる環境を作り出す」と語っています。AIと人間が共存する未来では、エンジニアの役割は「コードを書く人」から「AIをマネジメントし、創造的な判断を行う人」へと変容していくのかもしれません。

参考・免責事項
本記事は2025年11月30日時点の情報に基づいて作成されています。AIツールの機能や料金体系は頻繁に更新されるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。記事内容は個人的な調査・考察に基づくものであり、特定のツールの導入を推奨するものではありません。技術の進展は予測困難であり、本記事の内容が将来的に変わる可能性も十分にあります。導入を検討される際は、複数の情報源を参考にし、自己責任でご判断ください。