移動時間を開発時間に変える考察|スマホ特化のAI協働作業環境構築

移動時間を開発時間に変える考察|スマホ特化のAI協働作業環境構築

更新日:2025年11月12日

通勤電車の中、待ち合わせまでの空き時間、出先でのちょっとした合間。こうした細切れの時間をPCと同じように開発作業に使えたらと思ったことはありませんか。スマホでの作業はファイルの切り替えが面倒で、情報を探すのに時間がかかり、結局「PCに戻ってからやろう」となりがちです。しかし、設計書とコードを同じ場所に置くという発想を応用すれば、スマホの制約を逆に活かした効率的な作業環境を作れることが分かりました。個人的な試行錯誤から得られた知見をまとめてみましたので、同じように移動時間を有効活用したい方の参考になれば幸いです。

スマホ作業の課題と1ファイル集約戦略

スマホでの作業を阻む3つの壁

スマホで開発作業を行おうとすると、PCでは問題にならなかった制約が大きく立ちはだかります。最も深刻なのは画面サイズの制約で、複数のファイルやウィンドウを同時に開いて見比べることができません。また、ファイルシステムの扱いにくさも問題です。階層の深いフォルダ構造を移動するのは煩雑で、必要なファイルを探し出すまでに多くのタップが必要になります。さらに、入力効率の低下により、PCのようなキーボードショートカットが使えず、長文入力は時間がかかります。

スマホ作業での主な制約
画面サイズ:複数ファイルの同時表示が不可能
ファイル操作:深い階層の移動が煩雑
入力速度:フリック入力の限界
バッテリー:長時間作業に不向き

PC環境の発想を捨てる

多くの人がスマホ作業で挫折するのは、PC環境での作業スタイルをそのままスマホに持ち込もうとするからです。PCでは複数のファイルを開き、エディタとブラウザとターミナルを切り替えながら作業します。しかしスマホではこのスタイルは通用しません。重要なのは、制約を「できない理由」ではなく「設計の前提条件」として受け入れることです。

PC環境では役割分担のために分離していたファイルを、スマホでは物理的制約から統合せざるを得ません。これは一見すると妥協のように思えますが、実は「設計書とコードを同じ場所に置く」という原則の自然な延長線上にあります。画面が小さいからこそ、必要な情報を1つのファイルに集約し、スクロールだけで完結させる方が効率的なのです。

1ファイル集約戦略の3原則

スマホ作業を効率化するための基本戦略は、作業に必要な情報を1つのマークダウンファイルに集約することです。この戦略には3つの重要な原則があります。

原則 PC環境 スマホ環境
情報配置 複数ファイルに分散 1ファイルに集約
移動方法 ファイル切り替え スクロールのみ
作業単位 複雑なタスク 5-10分で完結

第一に、関連情報の完全集約です。作業対象のコード、設計意図、参考URL、過去の変更履歴など、必要な情報をすべて1つのファイルに含めます。第二に、階層最小化の徹底です。深いフォルダ階層を避け、よく使うファイルはクラウドストレージのトップレベルに配置します。第三に、タスクの原子化で、1回の作業で完結する最小単位に分解し、5-10分で終わるように設計します。

クラウド同期とPC連携

スマホ単独で作業を完結させることも重要ですが、PC環境との連携も考慮する必要があります。OneDrive、Google Drive、Dropboxなどのクラウドストレージを使えば、スマホで編集したファイルがPCに即座に反映されます。重要なのは、スマホでの作業を「完成」させようとせず、「準備」または「下処理」として位置づけることです。

スマホ・PC連携の典型的ワークフロー
移動中(スマホ):アイディアのブレスト、構成の検討
帰宅後(PC):詳細な実装、複雑な編集
外出先(スマホ):軽微な修正、レビュー確認
週末(PC):大規模なリファクタリング、テスト

Claude Mobileとの協働実践

Claude Mobileアプリの特性理解

Claude Mobileアプリは、PC版のClaude Desktopとは異なる特性を持っています。最も重要な違いは、ファイルシステムへの直接アクセスができないことです。PC版のMCP(Model Context Protocol)のような高度な連携機能は使えません。しかし、テキストのコピー&ペーストは可能であり、会話履歴は同期されるため、PC版との連続性は保たれます。

Claude Mobile の主要機能と制約
利用可能:テキスト対話、画像の添付・解析、会話履歴の同期
制約:ファイルシステムへの直接アクセス不可、MCP非対応、アーティファクトの編集制限
推奨用途:アイディア出し、コード断片の生成、簡易レビュー

作業開始前の準備ファイル作成

スマホでの作業を効率化するには、事前準備が重要です。作業を始める前に、必要な情報をすべて含んだマークダウンファイルを用意します。このファイルには、タスクの説明、現在のコード断片、設計意図、制約条件、そしてAIへの指示文テンプレートを含めます。

準備ファイルのテンプレート構造

  • タスク概要:今回やりたいことを1-2行で明記
  • 現在のコード:編集対象のコード断片を貼り付け
  • 設計意図:なぜこの実装にしたのか、守るべき原則
  • 制約条件:変更してはいけない部分、依存関係
  • AIへの指示文:コピペで使えるプロンプトを事前準備

この準備ファイルをクラウドストレージの最上位に「_work_current.md」のような名前で保存しておきます。スマホで作業を始める際は、このファイルを開き、内容をコピーしてClaude Mobileに貼り付けるだけです。ファイルを探す手間が省け、作業開始までの時間を大幅に短縮できます。

効率的な対話パターン

スマホでの入力は時間がかかるため、Claude Mobileとの対話では事前に用意したテンプレート文を活用します。よく使う指示文をマークダウンファイルに保存しておき、状況に応じてコピー&ペーストします。例えば、コードレビュー用、リファクタリング用、バグ修正用など、作業タイプ別にテンプレートを用意しておくと便利です。

作業タイプ テンプレート例 期待される出力
コードレビュー 以下のコードをレビューして改善点を指摘してください 問題点の列挙と修正案
バグ修正 このエラーの原因と修正方法を教えてください 原因分析と修正コード
リファクタリング この関数をより読みやすく書き直してください 改善されたコード

結果の保存と次回への引き継ぎ

Claude Mobileから得られた回答は、すぐに準備ファイルに追記します。マークダウンエディタアプリを使えば、Claudeアプリとエディタアプリの間を切り替えながら作業できます。重要なのは、会話の結果だけでなく、気づいた点や次回やるべきことも一緒にメモしておくことです。

作業が終わったら、ファイルの先頭に「最終更新日時」と「次回のタスク」を追記します。これにより、次回スマホで作業を始める際に、前回の続きから即座に再開できます。また、PC環境に戻った際にも、スマホでの作業内容を見失わずに本格的な実装に進めます。

5分で完結する作業パターン集

パターン1:ブログ記事タイトルのブレスト

新しいブログ記事のタイトル案を考える作業は、スマホで完結しやすい典型的なタスクです。記事のテーマと対象読者を箇条書きで準備しておき、「以下のテーマでブログ記事のタイトル案を10個提案してください」とClaude Mobileに依頼します。所要時間は3-5分程度で、移動中の短い時間でも実行可能です。

作業手順

  • 準備:記事テーマ、キーワード、避けたい表現を箇条書き
  • AIへ依頼:テンプレート文をコピペして実行
  • 選定:候補の中から2-3個を選び、理由もメモ
  • 保存:選んだタイトルと理由を準備ファイルに追記

パターン2:コードの簡易レビュー

書いたコードに明らかなバグや改善点がないか、Claude Mobileに確認してもらいます。関数やメソッド単位の短いコード断片であれば、スマホでも十分に扱えます。レビュー観点(パフォーマンス、可読性、エッジケースなど)を明示しておくと、より有用なフィードバックが得られます。所要時間は5-7分程度です。

パターン3:エラーメッセージの調査

開発中に遭遇したエラーメッセージをコピーして、Claude Mobileに原因と解決策を聞きます。エラーメッセージ、発生状況、使用している技術スタックを簡潔にまとめて質問すれば、多くの場合は有用な回答が得られます。完全な解決はPCに戻ってからでも、原因の仮説を立てられるだけで大きな前進です。所要時間は3-5分程度です。

パターン4:ドキュメントの誤字脱字チェック

書いた文章の誤字脱字や表現の不自然さをチェックしてもらいます。マークダウン形式のドキュメントをそのままClaude Mobileに貼り付け、「誤字脱字と不自然な表現を指摘してください」と依頼します。技術文書の場合は専門用語の誤用もチェックしてもらえます。所要時間は段落数によりますが、通常5-10分程度です。

パターン5:アイディアの構造化

頭の中にある漠然としたアイディアを、Claude Mobileとの対話を通じて構造化します。思いついたことを箇条書きで列挙し、「この内容を論理的な順序に並び替え、章立てを提案してください」と依頼します。ブログ記事の構成、機能設計の全体像、調査計画など、さまざまな場面で活用できます。所要時間は内容の複雑さによりますが、5-10分程度です。

作業パターン選択のポイント
入力量が少ない:準備データのコピペで済む作業を優先
出力が明確:期待する結果が具体的に想像できる作業
完結性が高:その場で判断・決定できる作業
PC不要:複雑な編集やファイル操作を伴わない作業

作業パターンのカスタマイズ

これらの基本パターンは、自分の開発スタイルや頻繁に行う作業に合わせてカスタマイズできます。よく使うパターンは、テンプレート化して準備ファイルに保存しておくと、さらに効率が上がります。重要なのは、スマホで「できること」に集中し、「PC環境でやった方が効率的なこと」は無理にスマホで完結させようとしないことです。

移動時間という細切れの時間を積み重ねることで、1日30分から1時間の作業時間を生み出せます。これは週に換算すると3.5-7時間、月に換算すると15-30時間にもなります。スマホの制約を受け入れ、その制約の中で最適化された作業環境を構築することで、移動時間を本当の意味での開発時間に変えることができるのです。

参考・免責事項
本記事は2025年11月12日時点の情報と個人的な実践経験に基づいて作成されています。使用するアプリやクラウドサービスの仕様は変更される可能性があります。記事内容は個人的な考察と実践例に基づくものであり、すべての環境や作業スタイルに適合するとは限りません。実際の導入にあたっては、ご自身の作業環境や制約を考慮して判断してください。