7-2 スクラム

Scrum Framework

スクラムは、最も広く採用されているアジャイルフレームワークである。 シンプルだが習得は難しく、経験を通じて深く理解していく必要がある。

1. スクラムの概要

1.1 スクラムとは

スクラムは、複雑な問題に対応するための軽量なフレームワークである。 1990年代にJeff SutherlandとKen Schwaberによって開発され、 現在はScrum.orgとScrum Allianceが認定を行っている。 「スクラムガイド」が公式のルールブックであり、 シンプルなルールセットで構成されている。

1.2 スクラムの3本柱

スクラムは経験主義に基づいており、 透明性、検査、適応の3本柱で成り立っている。 これらの柱が機能しなければ、スクラムの効果は発揮されない。

説明
透明性 プロセスと成果物を全員が見える状態にする
検査 成果物とゴールへの進捗を頻繁に検査する
適応 検査の結果に基づき、プロセスや成果物を調整する
スクラムフレームワークの全体像

図1: スクラムフレームワークの全体像

2. スクラムチーム(3つのロール)

スクラムチームは、プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発者で構成される。 マネージャーや技術リーダーといった階層的な役職はなく、 3つのロールが対等な立場で協力する。 チームの規模は通常10人以下が推奨される。

ロール 責任 人数
プロダクトオーナー(PO) プロダクトバックログの管理、価値の最大化 1人
スクラムマスター(SM) スクラムの促進、障害の除去、チーム支援 1人
開発者 インクリメントの作成 3〜9人

プロダクトオーナーは、プロダクトの価値を最大化する責任を持つ。 ステークホルダーの要望を集約し、優先順位をつける。 スクラムマスターは、スクラムが正しく機能するよう支援する。 開発者は、毎スプリント「完成の定義」を満たすインクリメントを作成する。

自己管理型チーム
スクラムチームは自己管理型であり、 誰が何をいつどのように行うかをチーム内で決定する。 外部からの指示待ちではなく、自律的に動く。 これには、信頼と権限委譲が不可欠である。

3. スクラムイベント(5つのイベント)

スクラムでは、5つの公式イベントが定義されている。 これらのイベントは、透明性を確保し、検査と適応の機会を提供する。 各イベントにはタイムボックス(時間制限)が設定されており、 効率的な進行が求められる。

イベント 目的 時間(2週間スプリント)
スプリント 固定期間での開発サイクル 1〜4週間
スプリントプランニング スプリントの計画、ゴール設定 最大4時間
デイリースクラム 進捗確認、計画の調整 15分
スプリントレビュー 成果物のレビュー、フィードバック収集 最大2時間
スプリントレトロスペクティブ プロセスの振り返り、改善 最大1.5時間

3.1 デイリースクラムの3つの質問

デイリースクラムでは、各メンバーが以下の3つの質問に答える形式が よく用いられる。ただし、これは必須ではなく、 チームに合った方法を選択してよい。 重要なのは、15分以内にスプリントゴールに向けた同期を取ることである。

質問 目的
昨日やったことは? 進捗の共有
今日やることは? 計画の共有
障害はあるか? 問題の早期発見
デイリースクラムは報告会ではない
デイリースクラムは上司への報告会ではなく、 チームメンバー同士の同期・協調のための場である。 スクラムマスターは必要に応じて参加するが、主役は開発者である。

4. スクラム成果物(3つの成果物)

スクラムでは、3つの成果物が定義されている。 各成果物には「コミットメント」が紐づいており、 透明性を高め、進捗を測定する基準となる。

成果物 説明 コミットメント
プロダクトバックログ 製品に必要な機能・改善のリスト プロダクトゴール
スプリントバックログ スプリントで実施する項目と計画 スプリントゴール
インクリメント 動作する製品の増分 完成の定義(DoD)

4.1 プロダクトバックログの管理

プロダクトバックログは、プロダクトに必要な機能、改善、修正の 優先順位付けされたリストである。 プロダクトオーナーが管理し、常に最新の状態に保つ。 上位の項目ほど詳細化され、すぐに着手できる状態にする。

活動 内容
優先順位付け 価値の高い項目を上位に
見積もり ストーリーポイントによる相対見積もり
リファインメント 項目の詳細化、分割

完成の定義(Definition of Done)

インクリメントが「完成」とみなされる基準である。 例:コードレビュー済み、単体テスト合格、結合テスト合格、 ドキュメント更新済み、ステージング環境にデプロイ済み。 チーム全員が合意し、守ることが重要である。

5. スクラムの実践ポイント

スクラムを効果的に実践するためのポイントを以下に示す。 フレームワークのルールを守ることは重要だが、 形式だけを追うのではなく、その意図を理解することが大切である。

ポイント 説明
タイムボックス厳守 イベントの時間を守る
スプリント中の変更禁止 スプリント中はゴールを変えない
ベロシティの計測 チームの生産性を把握
継続的な改善 レトロスペクティブでの改善を実践
参考文献
[1] Schwaber, K. (2020). The Scrum Guide.
[2] Rubin, K. (2012). Essential Scrum.