Claude 4.5とGPT-5の推論能力比較考察|ベンチマークから見る実力差

Claude 4.5とGPT-5の推論能力比較考察|ベンチマークから見る実力差

更新日:2025年12月8日

2025年は大規模言語モデルの競争が激化した年となりました。OpenAIが8月にGPT-5をリリースし、Anthropicは9月から11月にかけてClaude 4.5シリーズを順次公開しています。両社のフラッグシップモデルは、推論能力、コーディング、エージェント機能においてどのような違いがあるのか。公開されているベンチマーク結果と各種報道を基に、両モデルの特徴と実力差を個人的に調査・考察してみました。AI技術の動向に関心をお持ちの方の参考になれば幸いです。
Claude 4.5とGPT-5の推論能力比較考察|ベンチマークから見る実力差

1. モデル概要とアーキテクチャの特徴

1.1 GPT-5の設計思想

OpenAIは2025年8月7日、GPT-4から約2年4ヶ月ぶりとなるGPT-5を公開しました。GPT-5の最大の特徴は、従来別々に提供されていた推論モデル(o-series)と非推論モデル(GPT-series)を統合した点にあります。ユーザーの問いかけに応じて、高速な回答が適切か、深い思考が必要かを自動的に判断するルーターシステムを搭載しています。

技術仕様としては、400,000トークンのコンテキストウィンドウと128,000トークンの最大出力を実現しています。これは前世代のGPT-4oと比較して大幅な拡張であり、長文書の分析やコードベース全体の理解において優位性を発揮します。

GPT-5の統合アーキテクチャ
GPT-5は「thinking(思考)」と「fast response(高速応答)」を内部ルーターで切り替える設計を採用しています。Sam Altman CEOはこれをAppleのRetinaディスプレイに例え、技術的な飛躍というよりもユーザー体験の洗練であると説明しています。

1.2 Claude 4.5シリーズの構成

Anthropicは2025年後半、3つの新モデルを段階的にリリースしました。9月29日にSonnet 4.5、10月にHaiku 4.5、そして11月24日にフラッグシップのOpus 4.5を公開しています。特筆すべきは、一時期中間モデルのSonnet 4.5が上位モデルのOpus 4.1を性能で上回るという逆転現象が生じ、Opus 4.5でその階層関係を正常化したという経緯です。

Claude 4.5シリーズは200,000トークンのコンテキストと64,000トークンの出力上限を持ちます。GPT-5より小さい数値ですが、Anthropicはトークン効率の向上を重視しており、同等の問題を解く際のトークン消費量が少ないことを強調しています。

2025年主要モデルリリース時系列
2025年8月7日:GPT-5リリース(OpenAI)
2025年9月29日:Claude Sonnet 4.5リリース(Anthropic)
2025年10月:Claude Haiku 4.5リリース(Anthropic)
2025年11月24日:Claude Opus 4.5リリース(Anthropic)

2. ベンチマーク比較と性能分析

2.1 コーディング能力の評価

ソフトウェアエンジニアリング能力を測定するSWE-bench Verifiedは、実際のGitHubイシューの解決能力を評価する業界標準のベンチマークです。このベンチマークにおいて、Claude Opus 4.5は80.9%を達成し、GPT-5の74.9%を約6ポイント上回っています。Claude Sonnet 4.5も77.2%(並列計算時82.0%)を記録しており、コーディングタスクではClaude 4.5シリーズが優位に立っています。

MIT Technology ReviewのClémentine Fourrier氏(HuggingFace所属)は、これらのベンチマークが飽和に近づいており、「高校生が中学の問題を解くようなもの」と指摘しています。高得点が必ずしも実用的な優位性を意味しない可能性に留意が必要です。

ベンチマーク Claude Opus 4.5 Claude Sonnet 4.5 GPT-5
SWE-bench Verified 80.9% 77.2% 74.9%
Aider Polyglot Sonnet +10.6%向上 基準 非公開
OSWorld(GUI操作) 61.4% 61.4% 非公開
GPQA Diamond(推論) 非公開 83.4% 85.7%
AIME 2025(数学) 非公開 100%(ツール使用) 94.6%(ツールなし)

2.2 推論・数学能力の比較

GPQA Diamond(大学院レベルの推論問題)では、GPT-5が85.7%を達成し、Claude Sonnet 4.5の83.4%をわずかに上回っています。数学オリンピックレベルの問題を含むAIME 2025では、Claude Sonnet 4.5がPythonツール使用時に100%を達成する一方、GPT-5はツールなしで94.6%を記録しています。

これらの結果から、純粋な推論能力ではGPT-5がわずかに優位であり、ツール活用を含めた問題解決ではClaude 4.5が強みを発揮する傾向が読み取れます。ただし、両者の差は数ポイント程度であり、実用上は同等水準と見ることもできます。

ハルシネーション低減への取り組み
OpenAIはGPT-5において事実誤認(ハルシネーション)の大幅な低減を主張しています。一方、Anthropicはプロンプトインジェクション攻撃への耐性を強調しており、Opus 4.5が業界最高水準の堅牢性を持つとしています。安全性に対するアプローチの違いが見られます。

2.3 エージェント機能とトークン効率

長時間の自律動作を必要とするエージェントタスクでは、Claude 4.5シリーズが特に強みを発揮しています。Sonnet 4.5は30時間以上の連続タスク実行を実証しており、Opus 4.5はさらに長時間の自律動作に対応しています。GPT-5のChatGPTエージェントも複雑なワークフローで高い性能を示していますが、連続動作時間に関する具体的な数値は公開されていません。

トークン効率の面では、GitHubやReplitなどの企業がOpus 4.5の効率性を高く評価しています。同等の問題を解く際に、競合モデルと比較してトークン消費量が50%削減されるケースも報告されています。APIコストに直結するこの特性は、大規模運用において重要な考慮点となります。

3. 実用面での選択指針

3.1 コスト構造の比較

API利用料金は選択において重要な要素です。GPT-5は100万入力トークンあたり1.25ドル、100万出力トークンあたり10ドルと、フロンティアモデルとしては比較的低価格に設定されています。これに対し、Claude Opus 4.5は入力5ドル、出力25ドルと高めですが、前世代のOpus 4.1(入力15ドル、出力75ドル)から大幅に値下げされています。

モデル 入力($/1M tokens) 出力($/1M tokens) コンテキスト
GPT-5 $1.25 $10 400K
Claude Opus 4.5 $5 $25 200K
Claude Sonnet 4.5 $3 $15 200K

3.2 用途別の推奨モデル

調査結果を踏まえ、用途に応じた選択の指針を以下に整理します。これらはベンチマークと各種報道に基づく暫定的な見解であり、実際のユースケースでは異なる結果となる可能性があることにご留意ください。

用途別推奨モデル

  • コードリファクタリング・複雑なソフトウェア開発:Claude Opus 4.5(SWE-benchで最高性能、トークン効率が高い)
  • 汎用的なコーディング支援・コスト重視:GPT-5またはClaude Sonnet 4.5(性能と価格のバランスが良好)
  • 長時間のエージェントタスク:Claude Sonnet/Opus 4.5(30時間以上の連続動作実績)
  • 大規模コンテキストが必要な分析:GPT-5(400Kトークンコンテキスト)
  • マルチモーダル・推論重視:GPT-5(GPQA Diamondでわずかに優位)
  • セキュリティ・プロンプトインジェクション耐性重視:Claude Opus 4.5(業界最高水準の堅牢性を主張)

3.3 結論と今後の展望

2025年末時点において、Claude 4.5シリーズとGPT-5は互いに異なる強みを持つフロンティアモデルとして並び立っています。コーディングとエージェント機能ではClaude 4.5が優位性を示し、推論能力とコスト効率ではGPT-5が競争力を持っています。両社とも急速に改良を続けており、この評価は短期間で変わる可能性があります。

Simon Willison氏が指摘するように、ベンチマークの数ポイント差が実際の作業体験にどれほど影響するかは明確ではありません。同氏はOpus 4.5のプレビューからSonnet 4.5に戻した際、「同じペースで作業を続けられた」と報告しています。最終的には、自身のユースケースで両モデルを試し、タスク固有の要件に基づいて判断することが推奨されます。

参考・免責事項
本記事は2025年12月8日時点の情報に基づいて作成されています。記事内のベンチマーク数値は各社の公式発表および第三者評価に基づいていますが、測定条件や評価手法により異なる結果が得られる可能性があります。技術の進展は予測困難であり、本記事の評価が短期間で変化する可能性も十分にあります。重要な技術選定については、自身のユースケースでの検証と複数の情報源の参照をお勧めします。

主要参考文献
[1] Anthropic, "Introducing Claude Opus 4.5", 2025年11月24日
[2] MIT Technology Review, "GPT-5 is here. Now what?", 2025年8月7日
[3] Wikipedia, "GPT-5", 2025年12月
[4] TechCrunch, "OpenAI's GPT-5 is here", 2025年8月7日
[5] Simon Willison, "Claude Opus 4.5, and why evaluating new LLMs is increasingly difficult", 2025年11月24日