Agentic AI Foundation設立考察2025|AnthropicがMCPを寄贈しAIエージェント標準化へ
Agentic AI Foundation設立考察2025|AnthropicがMCPを寄贈しAIエージェント標準化へ
更新日:2025年12月11日
1. Agentic AI Foundation設立の概要と参加企業
1.1 Linux Foundation傘下での新団体設立
2025年12月9日(米国時間)、オープンソースソフトウェアの推進団体であるLinux Foundationは、AIエージェント技術の標準化団体「Agentic AI Foundation(AAIF)」の設立を発表した。AAIFは、AIエージェントおよび関連ツールの相互運用性を高め、異なるベンダーのシステム間でスムーズな連携を実現することを目的とする。
Linux Foundationの執行役員Jim Zemlin氏は「AIは対話型システムから自律的に協調動作するエージェントへと新たな段階に入りつつある」と述べ、これらのプロジェクトをAAIFの下で統合することで「オープンガバナンスのみが提供できる透明性と安定性をもって成長できる」と強調した。
Agentic AI(エージェンティックAI)とは、人間の指示を最小限に抑えながら、自ら主導権を持ち、意思決定を行い、目標達成のために独立して行動できるAIシステムを指す。従来の対話型AIとは異なり、複数のタスクを自律的に連携・実行する能力を持つ。UiPathの報告によれば、2025年半ばまでに約65%の組織がエージェンティックシステムの試験導入または本番運用を行っている。
1.2 発起人3社とプラチナメンバーの構成
AAIFの設立発起人はAnthropic、OpenAI、Block(旧Square)の3社である。これに加え、Amazon Web Services(AWS)、Google、Microsoft、Bloomberg、Cloudflareがプラチナメンバーとして参加する。AIエージェントに関わる主要企業が一堂に会したことで、世界的な標準規格を決定する組織となる可能性が高い。
注目すべきは、通常は競合関係にあるAnthropicとOpenAIが同じ団体の発起人として名を連ねている点である。両社はそれぞれClaude、ChatGPTという主要なAIプラットフォームを運営しているが、AIエージェントの基盤インフラについては協調路線を選択した。Block社のオープンソース責任者Manik Surtani氏は「次の10年を定義する技術は、少数の利益のために閉鎖的・独占的であり続けるか、オープンな標準・プロトコル・アクセスによって全員の利益のために推進されるか、重要な岐路に立っている」と述べている。
| 役割 | 企業名 | 寄贈プロジェクト |
|---|---|---|
| 発起人 | Anthropic | Model Context Protocol(MCP) |
| 発起人 | OpenAI | AGENTS.md |
| 発起人 | Block | goose |
| プラチナメンバー | AWS、Google、Microsoft、Bloomberg、Cloudflare | — |
1.3 ガバナンス構造と運営方針
AAIFはLinux Foundationの「Directed Fund」として設立され、会員からの会費によって運営される。重要な点として、単一のメンバーがプロジェクトのロードマップを支配することはできない仕組みが設計されている。戦略的投資、予算配分、新規プロジェクトの承認などはAAIFの理事会が決定する一方、MCP等の個別プロジェクトは技術的方向性と日常の運営について完全な自律性を維持する。
Block社はAAIFの目標として「WebにおけるW3Cのような存在になること」を掲げている。相互運用性、オープンアクセス、選択の自由を保証する標準とプロトコルのセットを、オープンソースの参照実装とともに提供することを目指す。
2. 寄贈される3つの基盤技術の分析
2.1 Model Context Protocol(MCP):AIと外部システムの接続標準
今回の発表における最大の目玉は、AnthropicによるMCPの寄贈である。MCPは、AIモデルと外部のツール、データ、アプリケーションを接続するための普遍的な標準プロトコルとして機能する。2024年11月にAnthropicがオープンソース化して以来、急速に普及し、事実上の業界標準となった。
2024年11月:Anthropicが社内プロジェクトとしてのMCPをオープンソースとして公開
2025年前半:主要AIプラットフォームが相次いで採用を発表
2025年12月時点:MCPサーバー数10,000以上、公式SDKの月間ダウンロード数9,700万回以上を記録
MCPの共同開発者であるDavid Soria Parra氏(Anthropicシニアエンジニア)は「主な目標は、事実上の標準となるのに十分な普及を達成すること」と述べ、「開発者が一度構築すれば、あらゆるクライアントで使用できるオープンな統合センターがあれば、我々全員にとって良いことだ」と説明した。
MCPはすでにClaude、ChatGPT、Cursor、Gemini、Microsoft Copilot、Visual Studio Codeなど主要なAIプラットフォームでサポートされている。Linux Foundationへの寄贈により、MCPが単一ベンダーによって支配されないことが制度的に保証される。Anthropicの最高製品責任者Mike Krieger氏は「MCPをLinux Foundationに寄贈することで、AIの重要なインフラストラクチャとなる過程においても、オープンで中立的かつコミュニティ主導であり続けることを確保する」とコメントした。
MCPが登場する以前、AIモデルを外部システム(ウェブ、データベース、チケッティングシステム、検索インデックス、CIパイプラインなど)に接続するには、プラットフォームごとに個別の統合コードを書く必要があった。n個のAIモデルとm個の外部システムがある場合、n×m通りの統合が必要になる。MCPはこの問題を、共通のプロトコル層を設けることで解決する。
2.2 AGENTS.md:AIコーディングエージェント向けの指示標準
OpenAIが寄贈するAGENTS.mdは、AIコーディングエージェントに対してプロジェクト固有の指示やコンテキストを提供するためのシンプルかつ普遍的な標準である。リポジトリに配置することで、AIツールにそのプロジェクトでどのように振る舞うべきかを伝える「取扱説明書」のような役割を果たす。
2025年8月のリリース以来、AGENTS.mdは60,000以上のオープンソースプロジェクトおよびエージェントフレームワークで採用されている。具体的には、Amp、Codex、Cursor、Devin、Factory、Gemini CLI、GitHub Copilot、Jules、VS Codeなどが含まれる。OpenAIのエンジニアNick Cooper氏は「AIエージェントがその潜在能力を最大限に発揮するためには、開発者と企業が信頼できるインフラストラクチャと構築のためのアクセス可能なツールを必要とする」と述べた。
2.3 goose:ローカルファーストのAIエージェントフレームワーク
Blockが寄贈するgooseは、2025年初頭にリリースされたオープンソースのAIエージェントフレームワークである。言語モデル、拡張可能なツール、MCP準拠の統合機能を組み合わせ、エージェントワークフローの構築・実行のための構造化された信頼性の高い環境を提供する。
gooseの特徴は「ローカルファースト」の設計思想にある。クラウドへの依存を最小限に抑えながら、標準化されたプロトコルに準拠することで、AAIFが目指すビジョンの参照実装として位置づけられている。BlockのエンジニアはMCP公開当初からコア貢献者として参加しており、現在も複数名がMCPの運営委員会メンバーを務めている。
| プロジェクト | 提供元 | 機能 | 採用状況 |
|---|---|---|---|
| MCP | Anthropic | AIと外部システムの接続プロトコル | 10,000+サーバー、9,700万回/月DL |
| AGENTS.md | OpenAI | AIエージェント向け指示ファイル標準 | 60,000+プロジェクトで採用 |
| goose | Block | ローカルファーストのエージェントフレームワーク | MCPの参照実装として機能 |
3. AIエージェント標準化がもたらす影響と展望
3.1 開発者・企業にとっての短期的メリット
AAIFの設立による短期的なメリットは明確である。第一に、カスタムコネクターの構築に費やす時間が削減される。MCPという共通プロトコルを採用することで、開発者は一度構築すれば複数のAIプラットフォームで動作する統合を実現できる。第二に、コードベース間でより予測可能なエージェント動作が得られる。AGENTS.mdにより、プロジェクトごとのエージェントの振る舞いが標準化される。第三に、セキュリティを重視する環境でのデプロイが簡素化される。
GitHubの2025年Octoverseレポートによれば、LLM SDKをインポートしている公開リポジトリは113万に達し、前年比178%増加している。数十万人の開発者がAIエージェント、ローカルランナー、パイプライン、推論スタックを構築している現状において、モデルとツール・サービス・コンテキストを接続する一貫した方法が求められている。AAIFはこの需要に応える基盤インフラとなる可能性がある。
3.2 オープンエコシステムvs独占的プラットフォーム
AAIFの設立は、AIエージェント技術の発展方向に関する重要な選択を示している。Block社が指摘するように、標準化されたオープンなインフラがなければ、ブレークスルーのアイデアが互いに構築し合うことが困難になり、統合の課題が企業導入を遅らせ、アクセシビリティの障壁が中小組織の恩恵を制限し、研究の限界が学術的・独立的なイノベーションを鈍化させるリスクがある。
「インターネット、Linux、Webは、オープンであったからこそ成功した」とBlock社は主張する。AAIFは、AIエージェント時代においても同様のオープンなエコシステムを構築することを目指している。MCPやAGENTS.md、gooseが標準インフラとなれば、エージェントの風景は閉鎖的なプラットフォームから、現代のウェブを構築した相互運用可能なシステムを想起させるオープンで組み合わせ自由なソフトウェア世界へと移行する可能性がある。
AAIF成功の指標(関係者の見解)
- Jim Zemlin氏(Linux Foundation):「採用に加えて、初期の成功指標は、世界中のベンダーエージェントが使用する共有標準の開発と実装だろう」
- Nick Cooper氏(OpenAI):「停滞したものにはしたくない。これらのプロトコルがこの財団の一部となり、2年間そのままということは望まない。進化し続け、さらなるインプットを受け入れるべきだ」
- David Soria Parra氏(Anthropic):「開発者として一度構築すれば、あらゆるクライアントで使用できるオープンな統合センターがあれば、我々全員にとって良いことだ」
3.3 懸念事項と今後の課題
オープンガバナンスの下でも、一企業の実装が最速でリリースされるか最も多く使用されることで事実上のデフォルトになる可能性がある。Linux FoundationのZemlin氏はこれについて、Kubernetesがコンテナ競争で「勝利」した例を挙げ、「支配はベンダーコントロールではなくメリットから生まれる」と説明している。しかし、UiPathのレポートによれば、IT専門家とセキュリティリーダーの96%がAIエージェントのリスク増大に懸念を抱いており、この問題への迅速な対応が求められている。
MITの報告では、AI投資から意味のある財務リターンを実現している企業はわずか5%に過ぎないとされている。標準化によって相互運用性が向上しても、それが直ちにビジネス価値の創出につながるわけではない。AAIFが真に成功するためには、技術標準の確立だけでなく、セキュリティパターンやベストプラクティスの策定、そして実際の導入事例の蓄積が必要となるだろう。
3.4 MCPの継続的発展とコミュニティの役割
AnthropicはMCPの開発に関する意思決定手法やコミュニティ運営ルールを既に確立しており、これらは「変更しない」方針を明示している。開発者コミュニティからの意見を重視し、透明性のある意思決定を優先する姿勢は、Linux Foundationへの移管後も維持される見込みである。
MCP公式ブログは「MCPにとってほとんど変わらない」と述べ、「今年初めに導入したガバナンスモデルはそのまま継続する。プロトコルに関する決定を行う人々は、SEPプロセスを通じたコミュニティの意見に導かれながら、これまでスチュワードシップを担ってきた同じメンテナーたちである」と説明した。Kubernetes、PyTorch、Node.jsと同様の中立的なスチュワードシップの下で、MCPの長期的な独立性とベンダー中立性が制度的に保証されることになる。
「オープンソースソフトウェアは、安全で革新的なエージェンティックAIのエコシステム構築に不可欠である。今日のLinux Foundationへの寄贈は、MCPが中立的でオープンな標準であり続けるという我々のコミットメントを示すものだ」— Anthropic
本記事は2025年12月11日時点の公開情報に基づいて作成されています。技術標準の策定や企業間の協力関係は変動する可能性があります。記事内容は個人的な考察に基づくものであり、投資判断や技術選定の根拠とすることは推奨しません。
主要な出典
Linux Foundation:Agentic AI Foundation設立発表
Anthropic:MCP寄贈とAAIF設立について
OpenAI:Agentic AI Foundation共同設立について
他の記事を見る(30件)
- 理化学研究所(RIKEN)の最新AI研究成果:科学とAIの融合による新たな展開
- 2025年最前線:米国主要AI研究機関の生成AIとエッジAI革新が示す未来
- 科学研究の新時代:AIが解き明かす未知への扉
- 「AIと人間の協調は長続きしない」という不都合な真実
- 手書きの復権:AIに頼りすぎた人生が失うもの
- AI分野の研究分類_包括的ガイド2025
- AIの内発的動機づけ:好奇心で動くエージェントの最前線
- 現場目線で読むChatGPT-5:精度、速度、拡張性のバランス再設計
- 効果的な学習の科学:処理水準理論とAI時代の学習法
- Claude 4が変えるAI開発の未来:半年で5倍成長したAnthropic最新動向2025
- AI2027レポート考察2025|元OpenAI研究者が描く3年後の衝撃シナリオ
- REL-A.I.研究考察2025|スタンフォードが明らかにした人間とAIの依存関係
- 言語モデルと脳の乖離研究2025|CMUが解明した人間とAIの3つの決定的な違い
- AI時代に必要なスキル完全ガイド2025|生き残るための10の必須能力
- スマートホーム5万円構築プラン2025|賃貸でも始められる実用的システム
- AI2025考察|GPT-5、Claude4.5時代の人工知能の本質
- イーロン・マスク「従業員ゼロ会社」考察|AI完全自動化の可能性と現実
- 障がい者主動のAI開発システムが人工知能学会で優秀賞受賞
- AIは褒めると性能が上がる?|感情プロンプトの効果を研究から考察
- 2025年11月AI学術研究ニュース考察|NeurIPS最優秀論文から生体ニューロン研究まで
- 「人工ハイブマインド」問題の研究考察|AIが人間の創造性を均質化するリスク
- 1000層ネットワークによる強化学習の研究考察|深さがもたらす新たな能力
- RLVRは本当に推論能力を拡張するのか?研究考察|NeurIPS 2025準最優秀論文の重要な発見
- Gated Attentionの研究考察|LLMアーキテクチャを改善するシンプルな修正
- AIエージェント市場の構造考察|評価額と実力のギャップを読み解く
- AI訓練データの著作権問題考察|クリエイター保護と技術発展のジレンマ
- Agentic AI Foundation設立考察2025|AnthropicがMCPを寄贈しAIエージェント標準化へ
- AIベースの自動テストツール考察2025|コード品質保証の次世代アプローチ
- Transformer以後のアーキテクチャ動向検討|State Spaceモデルの可能性評価
- Gemini Advanced推理能力検証考察|複雑問題解決の精度測定
コメント (0)
まだコメントはありません。