6-2 運用保守

Operations and Maintenance

運用保守は、システムを安定稼働させ、継続的に価値を提供するための活動である。 開発フェーズよりも長期間にわたり、システムのライフサイクル全体のコストの 大部分を占める重要な領域である。

1. 運用保守の概要

1.1 運用と保守の違い

運用と保守は混同されがちだが、目的と活動内容が異なる。 運用はシステムの日常的な稼働を維持する活動であり、 保守はシステムを修正・改善する活動である。 両者は密接に連携しながら、システムの安定稼働と継続的な価値提供を実現する。

活動 目的 内容
運用 システムの安定稼働 監視、バックアップ、障害対応、日常作業
保守 システムの維持・改善 バグ修正、機能改善、環境更新

1.2 保守の種類(ISO/IEC 14764)

国際規格ISO/IEC 14764では、ソフトウェア保守を4つのカテゴリに分類している。 この分類を理解することで、保守作業の優先順位付けや工数見積もりが 適切に行えるようになる。一般的に、是正保守と適応保守が保守工数の 大部分を占めるが、予防保守への投資が将来的なコスト削減につながる。

種類 目的
是正保守 欠陥の修正 バグ修正、障害対応
適応保守 環境変化への対応 OS更新、法改正対応
完全化保守 機能・性能の改善 機能追加、性能改善
予防保守 将来の問題防止 リファクタリング、脆弱性対応

2. 監視

2.1 監視の種類

効果的な監視体制は、障害の早期発見と迅速な対応を可能にする。 監視は複数のレイヤーで実施し、インフラからアプリケーション、 さらにはビジネス指標まで、多角的に状態を把握することが重要である。 単一の視点だけでは、問題の根本原因を特定することが困難になる。

監視種類 対象 監視項目例
インフラ監視 サーバー、ネットワーク CPU、メモリ、ディスク、死活
アプリケーション監視 アプリケーション レスポンスタイム、エラー率
ログ監視 ログファイル エラーログ、アクセスログ
外形監視 ユーザー視点 サービス応答、画面表示

2.2 監視ツール

監視ツールは、収集・可視化・アラートの機能を提供する。 クラウド環境ではマネージドサービスを活用することで、 運用負荷を軽減できる。オンプレミス環境では、 OSSの組み合わせも有効な選択肢となる。

ツール 特徴
Prometheus + Grafana メトリクス収集、可視化(OSS)
Datadog 統合監視SaaS、APM機能
CloudWatch AWS統合監視
Zabbix オープンソース、多機能
アラート疲れ
過剰なアラートは運用者の注意力を低下させる。 重要度に応じたアラートレベル設定と、ノイズの削減が重要である。 「オオカミ少年」状態にならないよう、アラートの閾値は 定期的に見直し、実際に対応が必要なものだけを通知する。

3. 障害対応

3.1 障害対応プロセス

障害対応は、検知から復旧、事後対応までの一連のプロセスである。 パニックにならず、手順に従って冷静に対応することが重要である。 特に初動対応では、影響範囲の確認と関係者への連絡を最優先とし、 原因調査は復旧後に詳細に行う。

障害対応プロセス

図1: 障害対応プロセス

フェーズ 活動
検知 監視アラート、ユーザー報告
初動対応 影響範囲確認、関係者連絡
原因調査 ログ分析、切り分け
復旧 暫定対応、恒久対応
事後対応 報告書作成、再発防止策

3.2 インシデント管理

インシデントは重要度によって分類し、対応優先度を決定する。 すべてのインシデントを同じ緊急度で扱うと、 本当に重要な問題への対応が遅れる危険性がある。 事前に分類基準と対応時間目標を定義しておくことが重要である。

重要度 影響 対応時間目安
Critical サービス全停止 即時対応
High 主要機能停止 1時間以内
Medium 一部機能障害 4時間以内
Low 軽微な問題 翌営業日
ポストモーテム(振り返り)
障害後は必ず振り返りを行う。目的は犯人探しではなく、 システムとプロセスの改善である。 「なぜ」を5回繰り返し、根本原因を特定する。 非難のない文化(Blameless Culture)が、 正直な報告と効果的な改善を可能にする。

4. SLA/SLO

4.1 用語の定義

サービスレベルに関する用語は混同されやすい。 SLAは顧客との契約であり、違反時にはペナルティが発生する可能性がある。 SLOは内部目標であり、SLAよりも厳しく設定することで、 SLA違反を未然に防ぐバッファを確保する。

用語 定義
SLA(Service Level Agreement) サービス提供者と顧客間の契約
SLO(Service Level Objective) 内部目標値
SLI(Service Level Indicator) 測定指標

4.2 一般的なSLA指標

可用性は最も一般的なSLA指標である。「99.9%」(スリーナイン)は 年間ダウンタイム約8.76時間を意味する。「99.99%」(フォーナイン)では 約52分となり、達成難易度が大きく上がる。 ビジネス要件とコストのバランスを考慮して、適切なレベルを設定する。

指標
可用性 99.9%(年間ダウンタイム8.76時間)
応答時間 95%のリクエストが200ms以内
障害復旧時間 MTTR 4時間以内
参考文献
[1] ITIL 4 Foundation.
[2] Google. Site Reliability Engineering.