2-3 プロセス群
Process Groups
1. プロセス群の概要
1.1 プロセス群とは
プロセス群(Process Group)とは、プロジェクトマネジメントのプロセスを 論理的にグループ化したものである。各プロセス群は特定の目的を持ち、 プロジェクトのライフサイクルを通じて繰り返し実行される。
| プロセス群 | 目的 | プロセス数(第6版) |
|---|---|---|
| 立上げ | プロジェクトまたはフェーズの開始を正式に認可 | 2 |
| 計画 | 目標達成のための行動計画を策定 | 24 |
| 実行 | 計画に基づいて作業を実施 | 10 |
| 監視・コントロール | 進捗を追跡・レビューし、必要な変更を管理 | 12 |
| 終結 | プロジェクトまたはフェーズを正式に完了 | 1 |
プロセス群はプロジェクト全体を通じて繰り返し実行される活動の分類であり、 フェーズはプロジェクトの時間的な区切りである。 1つのフェーズ内で複数のプロセス群が実行されることもある。
1.2 プロセス群間の相互作用
5つのプロセス群は独立して存在するのではなく、相互に作用しながら進行する。 計画プロセス群で作成した計画は実行プロセス群で実施され、 監視・コントロールプロセス群で進捗が確認され、必要に応じて計画が更新される。
2. 立上げプロセス群
2.1 立上げプロセス群の目的
立上げプロセス群は、新しいプロジェクトまたは既存プロジェクトの新しいフェーズを 正式に認可するために実行されるプロセスで構成される。 プロジェクトの存在理由を明確にし、成功に必要な権限を確立する。
2.2 主要プロセス
立上げプロセス群では、プロジェクトの開始に必要な活動を行う。
| プロセス | 知識エリア | 主な成果物 |
|---|---|---|
| プロジェクト憲章の作成 | 統合マネジメント | プロジェクト憲章 |
| ステークホルダーの特定 | ステークホルダーマネジメント | ステークホルダー登録簿 |
2.3 プロジェクト憲章
プロジェクト憲章(Project Charter)は、プロジェクトの存在を正式に認可する文書である。 プロジェクトマネージャーに権限を付与し、プロジェクトの目的と高レベルの要件を記載する。
| 憲章の記載項目 | 内容 |
|---|---|
| プロジェクトの目的・正当性 | なぜこのプロジェクトを実施するのか |
| 測定可能な目標 | 成功基準、KPI |
| 高レベルの要件 | 主要な機能・性能要件の概要 |
| 前提条件と制約条件 | 計画の前提、時間・予算・リソースの制約 |
| 主要マイルストーン | 重要な期日、中間目標 |
| 概算予算 | 予算の概算値 |
| 主要ステークホルダー | スポンサー、主要関係者 |
| PMの任命と権限 | プロジェクトマネージャーの権限範囲 |
正式な憲章なしにプロジェクトを開始すると、後になってスコープの解釈の違い、 権限の不明確さ、リソース確保の困難などの問題が発生しやすい。 忙しくても立上げプロセスは省略すべきではない。
3. 計画プロセス群
3.1 計画プロセス群の目的
計画プロセス群は、プロジェクト目標を達成するために必要な作業の全体像を定義し、 その行動計画を策定するプロセスで構成される。PMBOK第6版では最も多い24のプロセスが含まれる。
3.2 主要プロセス(抜粋)
計画プロセス群では、プロジェクトの計画を詳細化する。
| 知識エリア | プロセス | 主な成果物 |
|---|---|---|
| 統合 | プロジェクトマネジメント計画書の作成 | PM計画書 |
| スコープ | WBSの作成 | WBS、WBS辞書 |
| スケジュール | スケジュールの作成 | プロジェクトスケジュール |
| コスト | 予算の設定 | コストベースライン |
| 品質 | 品質マネジメントの計画 | 品質マネジメント計画書 |
| リスク | リスクの特定 | リスク登録簿 |
3.3 段階的詳細化
計画は一度作成して終わりではなく、プロジェクトの進行に伴って詳細化される。 これを「段階的詳細化」(Progressive Elaboration)と呼ぶ。 初期段階では高レベルの計画を作成し、詳細が明らかになるにつれて計画を更新する。
近い将来の作業は詳細に計画し、遠い将来の作業は大まかに計画する手法。 不確実性が高いプロジェクトで有効であり、アジャイル手法でも類似のアプローチが採用される。
4. 実行プロセス群
4.1 実行プロセス群の目的
実行プロセス群は、プロジェクトマネジメント計画書に定義された作業を完了するために 実行されるプロセスで構成される。人とリソースを調整し、プロジェクト作業を遂行する。
4.2 主要プロセス
実行プロセス群では、計画に基づいて作業を実施する。
| プロセス | 知識エリア | 主な活動 |
|---|---|---|
| プロジェクト作業の指揮・マネジメント | 統合 | 計画された作業の実施、成果物の作成 |
| 品質のマネジメント | 品質 | 品質方針の実施、継続的改善 |
| 資源の獲得 | 資源 | チームメンバー、物的資源の確保 |
| チームの育成 | 資源 | チームのスキル向上、協力関係の構築 |
| チームのマネジメント | 資源 | パフォーマンス管理、フィードバック |
| コミュニケーションのマネジメント | コミュニケーション | 情報の収集・配布・保管 |
| 調達の実行 | 調達 | ベンダー選定、契約締結 |
| ステークホルダーエンゲージメントのマネジメント | ステークホルダー | 期待管理、関係構築 |
実行プロセス群でのPMの役割
実行フェーズでは、PMは作業の調整者・促進者としての役割が重要になる。 チームが効果的に作業できる環境を整え、障害を取り除き、 ステークホルダー間のコミュニケーションを円滑にすることが求められる。
5. 監視・コントロールプロセス群
5.1 監視・コントロールプロセス群の目的
監視・コントロールプロセス群は、プロジェクトの進捗とパフォーマンスを 追跡・レビュー・調整し、計画からの逸脱を特定して是正措置を講じるプロセスで構成される。 プロジェクト全体を通じて継続的に実行される。
5.2 主要プロセス
監視・コントロールプロセス群では、進捗を監視し必要な調整を行う。
| プロセス | 知識エリア | 主な活動 |
|---|---|---|
| プロジェクト作業の監視・コントロール | 統合 | 全体進捗の追跡、パフォーマンス報告 |
| 統合変更管理 | 統合 | 変更要求のレビュー・承認・管理 |
| スコープの妥当性確認 | スコープ | 成果物の正式受入 |
| スコープのコントロール | スコープ | スコープクリープの防止 |
| スケジュールのコントロール | スケジュール | 進捗管理、遅延への対応 |
| コストのコントロール | コスト | 予算管理、EVM分析 |
| 品質のコントロール | 品質 | 成果物の検査、品質測定 |
| リスクの監視 | リスク | リスク状況の追跡、新規リスクの特定 |
5.3 変更管理の重要性
統合変更管理は、プロジェクトのベースライン(スコープ、スケジュール、コスト)への 変更を正式に管理するプロセスである。変更要求は変更管理委員会(CCB)で審議され、 承認された変更のみがプロジェクトに反映される。
正式な変更管理を経ずにスコープが徐々に拡大する「スコープクリープ」は、 プロジェクト失敗の主要因の1つである。すべての変更は正式なプロセスを通じて管理すべきである。
6. 終結プロセス群
6.1 終結プロセス群の目的
終結プロセス群は、プロジェクト、フェーズ、または契約を正式に完了させるために 実行されるプロセスで構成される。PMBOK第6版では「プロジェクトやフェーズの終結」 という1つのプロセスに統合されている。
6.2 終結時の主要活動
終結プロセス群では、プロジェクトを正式に完了させる活動を行う。
| 活動 | 内容 |
|---|---|
| 成果物の最終引渡し | 成果物の正式受入確認、引渡し文書作成 |
| 契約の終結 | ベンダー契約の完了確認、最終支払い |
| 教訓の収集 | プロジェクトの振り返り、知見の文書化 |
| 資源の解放 | チームメンバーの再配置、設備の返却 |
| 文書のアーカイブ | プロジェクト文書の整理・保管 |
| 最終報告 | プロジェクト完了報告書の作成 |
プロジェクトから得られた教訓を文書化し、組織のプロセス資産として蓄積することで、 将来のプロジェクトでの同様の問題を防止できる。 成功事例だけでなく、失敗や苦労した点も率直に記録することが重要である。
終結プロセスが軽視されがち
多くのプロジェクトでは、納品が完了すると急いで次のプロジェクトに移行し、 終結プロセスが軽視されがちである。しかし、正式な終結を行わないと、 未解決の課題が残ったり、教訓が失われたり、契約上の問題が発生する可能性がある。
プロセス群の理解を深めたら、次は「2-4 方法論の比較」で PMBOKと他の方法論(PRINCE2、アジャイルなど)の違いを学習しよう。
[1] PMI (2017). PMBOK Guide 6th Edition.
[2] PMI (2021). PMBOK Guide 7th Edition.