2-1 PMBOKの概要

PMBOK Overview

PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、 プロジェクトマネジメントの国際的な知識体系である。 本節では、PMBOKの歴史と進化、第6版と第7版の違い、 10の知識エリア、そして12の原則について詳しく解説する。

1. PMBOKとは

PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、 PMI(Project Management Institute)が発行する プロジェクトマネジメントの知識体系ガイドである。 世界中で広く採用され、プロジェクトマネジメントの 共通言語・共通基盤として機能している。

1.1 PMIについて

PMIは1969年に米国で設立された非営利団体で、 プロジェクトマネジメントの専門家育成と知識体系の発展に 取り組んでいる。世界最大のプロジェクトマネジメント専門家組織である。

項目 内容
設立 1969年(米国ペンシルベニア州)
会員数 60万人以上(世界200か国以上)
主な活動 PMBOK発行、資格認定(PMP等)、研究
日本支部 PMI日本支部(1998年設立)

1.2 PMBOKの歴史

発行年 主な特徴
初版 1996年 初のPMBOK Guide発行
第2版 2000年 プロセスの詳細化
第3版 2004年 9つの知識エリア確立
第4版 2008年 プロセス数を42に整理
第5版 2013年 ステークホルダーマネジメント追加(10知識エリア)
第6版 2017年 アジャイル対応強化
第7版 2021年 原則中心へ大転換
第7版の大転換
第7版では、従来のプロセス中心のアプローチから、 原則(Principles)とパフォーマンス領域(Performance Domains)を 中心としたアプローチへと大きく転換した。これにより、 予測型(ウォーターフォール)だけでなく適応型(アジャイル)にも 柔軟に対応できるようになった。

2. 10の知識エリア

PMBOK第6版までは、プロジェクトマネジメントを10の知識エリアに 体系化していた。各知識エリアには、そのエリアに属する プロセスとツール・技法が定義されている。

PMBOK 10の知識エリア

図1: PMBOK 10の知識エリア

2.1 統合マネジメント

プロジェクト全体を統合的に管理するための知識エリア。 各知識エリアの活動を調整し、プロジェクト全体の整合性を確保する。

プロセス 概要
プロジェクト憲章作成 プロジェクトの正式な認可と開始
プロジェクトマネジメント計画書作成 全体計画の策定
プロジェクト作業の指揮・マネジメント 計画に基づく実行
プロジェクト知識のマネジメント ナレッジの活用と共有
プロジェクト作業の監視・コントロール 進捗の追跡と是正
統合変更管理 変更要求の評価と処理
プロジェクトやフェーズの終結 正式な完了手続き

2.2 スコープマネジメント

プロジェクトで実施すべき作業を定義し、管理する。 「何を作るか」「何を作らないか」を明確にする。

プロセス 概要
スコープ・マネジメント計画 スコープ管理の方針策定
要求事項収集 ステークホルダーのニーズ収集
スコープ定義 プロジェクト・製品スコープの詳細記述
WBS作成 成果物を管理可能な単位に分解
スコープ妥当性確認 成果物の正式な受入
スコープ・コントロール スコープの変更管理

WBS(Work Breakdown Structure)

WBSはプロジェクトの成果物を階層的に分解した図である。 最下層の要素を「ワークパッケージ」と呼び、 これが見積りやスケジューリングの基本単位となる。 WBSは「100%ルール」に従い、すべての作業を網羅する。

2.3 その他の知識エリア

知識エリア 主な内容 キーワード
スケジュール 時間の計画・管理 ガントチャート、クリティカルパス、PERT
コスト 予算の見積り・管理 EVM、コストベースライン
品質 成果物・作業の品質確保 品質計画、品質保証、品質管理
資源 人的・物的資源の確保 RACI、チーム育成
コミュニケーション 情報の収集・配布 コミュニケーション計画、報告
リスク リスクの特定・対応 リスク登録簿、リスク対応戦略
調達 外部からの調達 契約、ベンダー管理
ステークホルダー 関係者の管理 ステークホルダー分析、エンゲージメント

3. PMBOK第7版の12原則

第7版では、プロセス中心から原則中心へと転換し、 12のプロジェクトマネジメント原則が定義された。 これらの原則は、プロジェクトに関わるすべての人の 行動指針となる。

# 原則 内容
1 スチュワードシップ 組織内外のリソースを責任を持って管理する
2 チーム 協力的なチーム環境を構築する
3 ステークホルダー ステークホルダーと効果的に関わる
4 価値 価値に焦点を当てる
5 システム思考 システム全体の相互作用を認識する
6 リーダーシップ リーダーシップ行動を示す
7 テーラリング 状況に応じてアプローチを適応させる
8 品質 プロセスと成果物に品質を組み込む
9 複雑性 複雑性に対応する
10 リスク リスク対応を最適化する
11 適応性とレジリエンス 変化に適応し、回復力を持つ
12 変革 望ましい将来の状態を実現する
テーラリングの重要性
第7版で強調されている「テーラリング」とは、 プロジェクトの特性に応じて手法やプロセスを 適切に調整することである。PMBOKは「こうすべき」という 規範ではなく、状況に応じて適用すべき知識体系である。

4. パフォーマンス領域

第7版では、8つのパフォーマンス領域が定義された。 これらは、プロジェクトの成果を効果的に達成するために 注力すべき相互に関連した活動領域である。

領域 内容
ステークホルダー ステークホルダーとの関係構築と維持
チーム チームの構成と発展
開発アプローチとライフサイクル 適切な開発手法の選択
計画 成果物と作業の計画
プロジェクト作業 作業の実行と管理
デリバリー 価値の提供
測定 パフォーマンスの評価
不確かさ リスクと不確実性への対応
次のセクション
次節「2-2 プロジェクトライフサイクル」では、 プロジェクトの開始から終結までのフェーズについて学ぶ。
参考文献
[1] PMI, PMBOK Guide 第7版, 2021
[2] PMI, PMBOK Guide 第6版, 2017
[3] PMI日本支部 https://www.pmi-japan.org/