第1章:鳩(ドバト)とは
更新日:2025年12月7日
1. 分類と学名
1.1 分類学的位置
鳩(ドバト)は、動物界(Animalia)、脊索動物門(Chordata)、鳥綱(Aves)、ハト目(Columbiformes)、ハト科(Columbidae)、カワラバト属(Columba)に属する。学名はColumba livia Gmelin, 1789である[1]。
「ドバト」は日本語の通称であり、英語ではFeral Pigeon(野生化した鳩)またはRock Dove(岩鳩)と呼ばれる。Feralは「野生化した」を意味し、かつて家禽として飼育されていた個体が野生に戻ったことを示している。
Fig. 1に鳩の分類学的位置をマインドマップとして示す。
1.2 亜種と品種
カワラバト(Columba livia)には複数の亜種が認められている。Table 1に主な亜種を示す。
Table 1. カワラバトの主な亜種
| 亜種名 | 分布地域 | 特徴 |
|---|---|---|
| C. l. livia | 西ヨーロッパ、北アフリカ | 基亜種、青灰色の体色 |
| C. l. gaddi | イラン、トルクメニスタン | やや淡い体色 |
| C. l. intermedia | インド亜大陸 | より暗い体色 |
| C. l. neglecta | 中央アジア山岳地帯 | 大型で淡い体色 |
家禽化された鳩からは、伝書鳩、レース鳩、観賞用品種など多様な品種が作出された。これらの品種から逃げ出した個体が野生化し、現在の都市ドバトの祖先となっている。
2. 形態的特徴
2.1 外部形態
成鳥の体長は約29-37cm、翼開長は62-72cm、体重は238-380gである[2]。Table 2に形態的特徴の詳細を示す。
Table 2. ドバトの形態的特徴
| 部位 | 特徴 |
|---|---|
| 頭部 | 小さく丸い頭部、虹彩はオレンジ色から赤色 |
| 嘴 | 細長く、基部に蝋膜(ろうまく)がある |
| 脚 | 赤色から紫がかったピンク色、前趾3本・後趾1本 |
| 翼 | 先端が尖り、高速飛行に適した形状 |
| 尾 | 中程度の長さ、先端は丸みを帯びる |
2.2 羽色の多様性
野生型のカワラバトは青灰色の体色を持ち、翼に2本の黒い帯が見られる。しかし都市のドバトは家禽化の歴史により、多様な羽色パターンを示す。
2.2.1 野生型(Blue-bar)は青灰色の基本体色に、翼に2本の黒い帯を持つ。これは祖先型のパターンである。
2.2.2 チェッカー型(Checker)は翼に斑点模様が広がるパターンである。
2.2.3 スプレッド型(Spread)は全身が濃い色で覆われ、翼の帯が不明瞭になる。
2.2.4 レッド型は茶褐色から赤褐色の体色を示す変異型である。
2.2.5 パイド型は白い斑が不規則に入るパターンである。
3. 分布と生息環境
3.1 原産地
カワラバトの原産地は、地中海沿岸から中央アジアにかけての岩場地帯である。特にヨーロッパ南部、北アフリカ、中東、インド亜大陸の崖や洞窟に生息していた。この岩場への適応が、後に都市のビルや橋梁への適応を可能にした。
Fig. 2にドバトの都市環境への適応プロセスを示す。
3.2 世界への拡散
人間による家禽化と都市化により、鳩は現在、南極を除くすべての大陸に分布している。Table 3に主要地域への拡散時期を示す。
Table 3. ドバトの世界への拡散
| 地域 | 拡散時期 | 経緯 |
|---|---|---|
| ヨーロッパ | 紀元前3000年頃 | メソポタミアから家禽として導入 |
| 北米 | 17世紀 | ヨーロッパからの入植者が持ち込む |
| 南米 | 16世紀 | スペイン・ポルトガルの植民地化に伴う |
| オーストラリア | 19世紀 | ヨーロッパからの移民が導入 |
| 日本 | 8世紀頃 | 中国から仏教寺院とともに伝来 |
4. 人間との歴史
鳩と人間の関係は、少なくとも5000年以上前にさかのぼる。メソポタミア文明において食用・通信用として家禽化されたのが始まりとされる[3]。
4.1 古代においては、鳩は神の使いとして崇拝された。古代エジプトでは豊穣の象徴とされ、メソポタミアでは愛と戦いの女神イシュタルの聖鳥であった。
4.2 通信手段としての利用は紀元前に始まり、古代ギリシャではオリンピックの結果を伝えるために用いられた。20世紀初頭まで伝書鳩は重要な通信手段であり、第一次・第二次世界大戦でも軍事通信に活用された。
4.3 現代においては、都市の景観の一部として、また環境指標種として認識されている。一方で個体数管理の対象ともなっており、人間との関係は複雑である。
次章では、鳩の繁殖行動と子育てについて詳しく解説する。
References
[1] D. Goodwin, "Pigeons and Doves of the World," 3rd ed., Cornell University Press, 1983.
[2] R.F. Johnston and M. Janiga, "Feral Pigeons," Oxford University Press, 1995.
[3] A. Levi, "The Pigeon," Sumter, SC: Levi Publishing, 1977.
本コンテンツは2025年12月時点の科学的知見に基づいて作成されている。分類学的な見解は研究の進展により変更される可能性がある。