第4章:採餌行動

更新日:2025年12月7日

本章では、鳩の食性と採餌行動について解説する。鳩は基本的に種子食性であるが、都市環境では人間の食物の残りも摂取する柔軟な食性を持つ。採餌活動は主に日中に行われ、特に朝と夕方に活発になる。この「双峰性活動パターン」と呼ばれる行動パターン、集団採餌の利点、季節変化への適応について学ぶ。
鳩の採餌行動

1. 食性と栄養要求

1.1 基本的な食性

鳩は穀食性(granivorous)を基本とするが、都市環境では雑食性の傾向を示す。Table 1に鳩の主要な食物を示す[1]。

Table 1. 鳩の食物源

カテゴリ 具体例
自然食(種子類) 草の種子、穀物、豆類、木の実
都市での食物 パンくず、米粒、スナック菓子の破片
補助的食物 若葉、果実、まれに昆虫
消化補助 グリット(小石)、塩分を含む土

グリットは筋胃(砂嚢)での食物の粉砕を助けるために摂取される。鳩は歯を持たないため、硬い種子を消化するためにはグリットが必要である。

1.2 栄養要求量

成鳥の1日あたりの食物摂取量は体重の約10-15%であり、体重300gの鳩では30-45gに相当する。Table 2に栄養要求の詳細を示す。

Table 2. 鳩の栄養要求

項目 要求量 備考
食物摂取量 30-45g/日 体重の10-15%
水分摂取量 30-60ml/日 気温により変動
タンパク質 12-16% 繁殖期には増加
カルシウム 1-2% 産卵期には特に重要

2. 採餌パターン

2.1 日周パターン

鳩の採餌活動は「双峰性活動パターン(bimodal activity pattern)」を示す。Fig. 1に典型的な1日の活動パターンを示す。

2.1.1 早朝の採餌ピーク(日の出から午前9時頃)は、夜間の絶食後のエネルギー補給を目的とする。この時間帯は最も活発な採餌活動が見られる。

2.1.2 日中(午前9時から午後3時頃)は採餌活動が低下し、休息、羽繕い、日光浴に時間を費やす。

2.1.3 夕方の採餌ピーク(午後3時から日没)は、夜間に備えたエネルギー蓄積を目的とする。

2.2 採餌場所の選択

都市環境において、鳩は人間の活動パターンに合わせて採餌場所を選択する。Table 3に典型的な採餌場所を示す。

Table 3. 都市における採餌場所

場所 食物源 特徴
公園 人からの給餌、落ちた種子 安定した食物供給
駅前広場 落とした食べ物 人の往来が多い
商店街 飲食店からの残渣 早朝に多い
学校周辺 給食、弁当の残り 昼食時間後に集中

3. 集団採餌行動

鳩はしばしば群れで採餌を行う。これには複数の適応的利点がある[2]。Fig. 2に集団採餌の利点を示す。

3.1 情報共有について、個体は他の個体の採餌成功を観察することで、効率的に良い餌場を発見できる。これは「地域的強化(local enhancement)」と呼ばれる現象である。

3.2 捕食者警戒について、多くの目で周囲を監視することで、個体あたりの警戒時間を減少させ、採餌に費やす時間を増やすことができる。これを「警戒の希釈効果」と呼ぶ。

3.3 優位順位について、群れの中には優位順位(dominance hierarchy)が存在し、優位個体は良い餌場へのアクセスを優先的に得る。この順位は主に体サイズ、年齢、性別によって決定される。

4. 季節変化と適応

季節によって食物の入手可能性が変化するため、鳩の採餌行動も適応的に変化する。Table 4に季節ごとの採餌パターンを示す。

Table 4. 季節と採餌パターン

季節 主要な食物源 行動の特徴
新芽、若い種子、昆虫 繁殖期のため高タンパク食を選好
熟した種子、果実 暑さを避け早朝と夕方に採餌集中
落ち種、木の実 冬に備え採餌時間が増加
貯蔵種子、人間の給餌 エネルギー節約のため効率的採餌

4.1 都市環境の利点として、都市に生息する鳩は自然環境の個体と比較して季節変動の影響を受けにくい。人間の活動により年間を通じて食物が供給されるためである。

4.2 餌やりの影響について、人間による餌やりは鳩の個体数増加の主要因の一つである。過度な餌やりは個体数の急激な増加を招き、糞害などの都市問題につながる可能性がある。

次章では、鳩の驚異的なナビゲーション能力について詳しく解説する。

References

[1] R.F. Johnston and M. Janiga, "Feral Pigeons," Oxford University Press, 1995.

[2] C.J. Barnard and R.M. Sibly, "Producers and scroungers: A general model and its application to captive flocks of house sparrows," Animal Behaviour, vol. 29, pp. 543-550, 1981.

免責事項
本コンテンツは2025年12月時点の科学的知見に基づいて作成されている。野生の鳩への餌やりは地域の条例により制限されている場合があるため、各地域の規則に従うこと。

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