第3章:コミュニケーション
更新日:2025年12月7日
1. 音声コミュニケーション
1.1 鳴き声の種類
鳩の鳴き声は「クー(coo)」と総称されるが、実際には複数の異なるパターンが存在する。これらは周波数、長さ、繰り返しパターンによって区別される[1]。
Fig. 1に鳩の主な鳴き声パターンを示す。
Table 1に鳴き声の種類と機能を示す。
Table 1. 鳩の鳴き声の種類
| 鳴き声 | 特徴 | 機能 |
|---|---|---|
| 広告クー(Advertising coo) | 長く、低音、繰り返しのパターン | 縄張り主張、メスへのアピール |
| 求愛クー(Bow coo) | お辞儀をしながらの短い発声 | 求愛ディスプレイの一部 |
| 巣呼びクー(Nest coo) | やや高めの音調 | パートナーを巣に呼ぶ |
| 警戒音 | 短く鋭い音 | 危険の警告 |
| 翼拍音(Wing clap) | 翼を打ち合わせる音 | 飛び立ち時の警告、ディスプレイ |
1.2 状況別の発声
1.2.1 繁殖期には、オスの発声頻度が著しく増加する。特に早朝と夕方に活発な発声が見られ、これは縄張り主張とメスへの求愛を兼ねている。
1.2.2 採餌時には、仲間に食物の発見を知らせる低い発声が行われることがある。ただし、競争が激しい状況では発声を控える傾向がある。
1.2.3 捕食者を発見した際は、短く鋭い警戒音を発し、群れ全体に危険を伝達する。この警戒音は種を超えて他の鳥類にも認識される。
2. ボディランゲージ
2.1 姿勢とシグナル
鳩は体の姿勢を通じて様々な情報を伝達する。Table 2に代表的な姿勢とその意味を示す。
Table 2. 鳩の姿勢とその意味
| 姿勢 | 特徴 | 意味 |
|---|---|---|
| 胸を膨らませる | 体を大きく見せる | 優位性の主張、求愛 |
| お辞儀 | 頭を下げる動作 | 求愛、服従 |
| 尾を広げる | 尾羽を扇状に開く | 求愛ディスプレイ |
| 首を膨らませる | 首の羽毛を逆立てる | 威嚇、興奮 |
| 体を縮める | 羽毛を体に密着させる | 恐怖、服従 |
2.2 羽毛の状態
羽毛の状態は鳩の内的状態を反映する重要な指標である。
2.2.1 羽毛を膨らませている状態は、リラックスしているか、寒さを感じているか、または体調不良の可能性を示す。
2.2.2 羽毛を体に密着させている状態は、警戒中、恐怖、または暑さを感じていることを示す。
2.2.3 頭部や首の羽毛を逆立てている状態は、興奮、威嚇、または求愛中であることを示す。
3. 視覚的シグナル
鳩は優れた色覚を持ち、視覚的シグナルを重要なコミュニケーション手段として利用する[2]。
3.1 虹彩の色について、鳩の虹彩はオレンジ色から赤色まで変化し、興奮状態では瞳孔の収縮により虹彩がより目立つようになる。これは感情状態の指標となる。
3.2 羽色について、首周りの構造色(虹色に輝く羽毛)は、角度によって色が変化し、ディスプレイ時に重要な役割を果たす。オスは求愛時にこの部分を相手に見せるように体を動かす。
3.3 脚の色について、脚の赤み具合は健康状態や興奮度を反映する。繁殖期には脚の色が鮮やかになる傾向がある。
4. 社会的コミュニケーション
鳩は群れで生活する社会性の高い鳥類であり、複雑な社会的コミュニケーションを行う。Fig. 2に鳩の社会的相互作用を示す。
4.1 アロプリーニング(相互羽繕い)は、つがいや親しい個体間で行われる羽繕い行動である。これは社会的絆を強化し、ストレスを軽減する効果がある。
4.2 空間的配置として、群れの中での個体間距離は社会的関係を反映する。つがいは近接して行動し、優位な個体は良い場所を占有する。
4.3 集団意思決定について、群れの移動開始は特定の個体が先導することが多いが、多くの場合、複数の個体による合意形成を経て行動が開始される。研究によれば、群れの約10%の個体が移動を開始すると、残りの個体も追随する傾向がある[3]。
次章では、鳩の採餌行動について詳しく解説する。
References
[1] D. Goodwin, "Pigeons and Doves of the World," 3rd ed., Cornell University Press, 1983.
[2] M. Remy and J. Emmerton, "Behavioral spectral sensitivities of different retinal areas in pigeons," Behavioral Neuroscience, vol. 103, pp. 170-177, 1989.
[3] D. Biro et al., "Homing pigeons develop local route stereotypy," Proceedings of the Royal Society B, vol. 271, pp. 17-23, 2004.
本コンテンツは2025年12月時点の科学的知見に基づいて作成されている。コミュニケーション行動の解釈は研究により見解が異なる場合がある。