8-4 評価と改善

Evaluation and Improvement

LLMアプリケーションの品質を維持・向上させるには、 継続的な評価と改善が不可欠である。 従来のソフトウェアテストとは異なるアプローチが必要であり、 MLOps/LLMOpsの知識が重要となる。

1. LLM評価の難しさ

1.1 従来のテストとの違い

LLMの出力は確率的であり、同じ入力でも異なる出力が生成される場合がある。 また、「正解」が一意に定まらないタスクも多く、 従来のユニットテストのような厳密な検証が難しい。 主観的な品質評価が必要な場合もあり、 評価方法自体の設計が重要な課題となる。

観点 従来のソフトウェア LLMアプリケーション
正解の定義 明確(期待値と比較) 曖昧(複数の正解あり)
再現性 高い(決定論的) 低い(確率的)
評価指標 合否(Pass/Fail) スコア、主観評価
テストケース 境界値、網羅性 多様な入力パターン

1.2 評価の観点

LLMの出力品質を評価する観点は多岐にわたる。 タスクの種類によって重要な観点が異なるため、 アプリケーションの目的に応じた評価指標を選択する必要がある。

観点 説明
正確性 事実と合致しているか
関連性 質問に対して適切に回答しているか
完全性 必要な情報が含まれているか
一貫性 矛盾がないか
流暢性 自然な文章か
有害性 不適切な内容を含んでいないか

2. 評価手法

2.1 自動評価

自動評価は、人手を介さずにLLMの出力を評価する手法である。 大量のテストケースを効率的に評価できるが、 主観的な品質の評価には限界がある。 複数の手法を組み合わせることが推奨される。

手法 説明 適用場面
完全一致 期待値との文字列比較 構造化出力、分類
BLEU / ROUGE n-gram重複による類似度 翻訳、要約
埋め込み類似度 意味的な類似度を計算 意味の近さを評価
LLM-as-Judge 別のLLMが評価 主観的品質

2.2 人手評価

人手評価は、最も信頼性の高い評価方法である。 ただし、コストと時間がかかるため、 重要なサンプルに絞って実施することが現実的である。 評価基準を明確にし、評価者間のばらつきを最小化する工夫が必要である。

手法 説明
絶対評価 1〜5のスケールで評価
比較評価 2つの出力を比較してどちらが良いか
A/Bテスト 本番環境での実ユーザー評価
Golden Dataset
高品質な入出力ペアのデータセットを「Golden Dataset」と呼ぶ。 このデータセットを基準として、モデルやプロンプトの変更による 品質の変化を評価する。継続的な品質管理の基盤となる。

3. MLOps / LLMOps

3.1 MLOpsとは

MLOpsは、機械学習モデルの開発・デプロイ・運用を効率化する プラクティスとツールの総称である。 DevOpsの考え方を機械学習に適用したものであり、 モデルのライフサイクル全体を管理する。 LLMアプリケーションでは「LLMOps」と呼ばれることもある。

活動 内容
実験管理 モデル、パラメータ、結果の記録
バージョン管理 モデル、データ、プロンプトの版管理
CI/CD 自動テスト、自動デプロイ
監視 性能、品質、コストの継続的モニタリング
フィードバックループ 本番データを学習・改善に活用
LLMOpsの継続的改善サイクル

図1: LLMOpsの継続的改善サイクル

3.2 LLMOpsツール

LLMアプリケーションの運用を支援するツールが登場している。 プロンプトの管理、トレースの記録、評価の自動化などの機能を提供する。

ツール 機能
LangSmith トレース、評価、プロンプト管理
Weights & Biases 実験管理、可視化
MLflow 実験管理、モデルレジストリ
Promptfoo プロンプトのテスト、比較

4. 継続的改善

4.1 改善のサイクル

LLMアプリケーションの品質は、継続的な改善によって向上させる。 本番環境からのフィードバックを収集し、 分析して改善策を実施するサイクルを回す。

ステップ 活動
収集 ユーザーフィードバック、ログ、メトリクス
分析 失敗パターン、改善機会の特定
仮説 改善案の立案
実験 オフライン評価、A/Bテスト
展開 検証済みの改善を本番に適用

4.2 改善のアプローチ

LLMアプリケーションの改善には、複数のアプローチがある。 コストと効果のバランスを考慮し、適切な手法を選択する。 一般的には、プロンプト改善から始め、 それで不十分な場合にRAGやファインチューニングを検討する。

アプローチ コスト 効果
プロンプト改善 即効性あり
RAG改善 知識の追加・更新
モデル変更 低〜中 基本性能の向上
ファインチューニング 特定タスクへの最適化

フィードバックの収集

ユーザーからのフィードバックは改善の重要な情報源である。 「役に立った/立たなかった」のボタン、詳細なコメント、 実際の利用パターンなど、複数のチャネルから収集する。 プライバシーに配慮しつつ、改善に活用できる仕組みを構築することが重要である。

第8章・全章完了
AI/LLMプロジェクトの基本を学習しました。 これで「ITプロジェクト入門」の全内容が完了です。 学んだ知識を実際のプロジェクトで活用してください。
参考文献
[1] Huyen, C. (2022). Designing Machine Learning Systems.
[2] LangChain Documentation.