SES雇用問題の実態調査 - IT業界の闇を暴く
SES雇用問題実態調査2025|IT業界労働環境の構造的課題分析
更新日:2025年9月19日
                日本のIT業界において、SES(システムエンジニアリングサービス)契約で働くエンジニアの労働環境について調査・考察してみました。派遣労働者との法的保護格差、多重下請け構造による課題、実際の労働者の声などを総合的に分析し、業界の構造的問題について検討いたします。同様の関心をお持ちの方に参考になれば幸いです。
            
        SESと派遣労働の法的枠組み比較
SES契約は民法第656条に基づく準委任契約として位置づけられており、労働者派遣法の適用対象外となっています。この法的構造の違いが、労働者保護において重要な差異を生んでいます。
法的保護の比較
| 項目 | 派遣労働者 | SES労働者 | 
|---|---|---|
| 適用法令 | 労働者派遣法 | 民法(準委任契約) | 
| 雇用安定措置 | 3年ルール等の保護 | 特別な保護なし | 
| 同一労働同一賃金 | 義務化 | 適用外 | 
| 指揮命令権 | 派遣先企業 | 建前上はSES企業 | 
                偽装請負の課題:実態では発注者が直接業務指示を行うケースが多く見られますが、準委任契約の性質上、違法性の立証は複雑な判断を要します。厚生労働省の37号告示による判定基準はありますが、現実の業務実態との乖離が指摘されています。
            
            厚生労働省は2025年にアジャイル開発に関する疑義応答集を発表し、8年ぶりにSES基準の明確化を図りましたが、IT業界の多様化した業務形態への対応は継続的な課題となっています。
労働者が直面する課題
SESエンジニアの労働環境については、複数の調査や証言から以下のような課題が報告されています。
主要な労働課題
報告されている主な問題
- 労働時間管理の課題:客先常駐により所属企業による適切な労働時間管理が困難
- 有給休暇取得の困難:プロジェクトスケジュールとの調整が複雑化
- キャリア形成の不透明性:評価体制や昇進基準が不明確
- 雇用の不安定性:プロジェクト終了による契約変更や配置転換
労働者の証言例
- 「所属企業の上司と年に数回しか会わないため、評価基準がわからない」
- 「技術スキル向上のための研修機会が限定的」
- 「プロジェクト終了時の次の配属先が不透明で不安」
- 「客先での立場が曖昧で、責任範囲が明確でない」
                労働組合による支援:情報労連やICTJユニオンなどがSESエンジニアの労働相談に対応していますが、客先常駐による分散勤務の特性上、組織化には課題があるとされています。
            
        多重下請け構造の実態
IT業界では最大7次請けまでの多重下請け構造が存在するケースが報告されており、これが様々な課題を生み出していると指摘されています。
下請け構造による影響
                典型的な下請け構造
エンド企業 → 元請け → 1次下請け → 2次下請け → ... → 最終下請け(エンジニア所属企業)
            エンド企業 → 元請け → 1次下請け → 2次下請け → ... → 最終下請け(エンジニア所属企業)
| 課題 | 具体的影響 | 対象エンジニア | 
|---|---|---|
| 中間マージンの累積 | エンジニアへの還元率低下 | 下位層のエンジニア | 
| 情報伝達の複雑化 | 要件変更等の伝達遅延 | 全レイヤーのエンジニア | 
| 責任の分散 | 問題発生時の対応困難 | 特に下位層のエンジニア | 
                公正取引委員会の調査:2019年の調査では、下請け企業の一定割合が「付加価値を提供しない中間業者」の存在を指摘していますが、業界全体の正確な実態把握は継続的な課題となっています。
            
            客先常駐システムの特徴
- プロジェクトベースでの働き方
- 多様な企業文化への適応が必要
- 人脈形成の機会が限定的
- 所属企業への帰属意識の希薄化
労働者の声と体験
各種調査や口コミサイト、SNS等から収集された労働者の声には、以下のような内容が見られます。
「SESで働く中で感じるのは、キャリアパスが見えにくいということ。技術者として成長したいが、どこに向かって努力すればいいかわからない」(都内SES企業・エンジニア)
ポジティブな側面の証言
- 「多様なプロジェクトに参加できるため、幅広い経験が積める」
- 「異なる業界・企業文化を学べる機会がある」
- 「新しい技術に触れる機会が多い」
課題として指摘される側面
- 「長期的なスキル開発計画が立てにくい」
- 「プロジェクト終了後の不安定さ」
- 「所属企業でのキャリア相談機会が限定的」
労働者支援の取り組み
- 労働組合活動:個人加盟可能な組合による相談体制
- 業界団体:日本情報システム・ユーザー協会等による環境改善活動
- 政府施策:働き方改革関連法による労働環境改善推進
政府・行政の対応状況
政府・行政機関は、IT業界の労働環境改善に向けて複数の施策を実施していますが、SES特有の課題への対応は発展途上にあります。
主要な政策対応
                近年の主要な動き
                
            - 2019年:働き方改革関連法の施行
- 2020年:同一労働同一賃金の適用拡大
- 2025年:アジャイル開発に関する疑義応答集発表
監督・指導体制の課題
- 労働基準監督署による監督の実効性確保
- IT業界特有の業務形態への対応力強化
- 多重下請け構造の実態把握の困難さ
                国際比較の観点:ドイツやフランス等では、より明確な雇用関係の法的区別が確立されており、労働者保護の観点から参考とする議論もあります。
            
        改善への取り組みと展望
業界の健全化に向けて、様々な関係者による改善取り組みが進められています。
短期的な改善アプローチ
現在進行中の取り組み
- 透明性の向上:契約内容の明確化、マージン率の開示促進
- 労働環境の改善:適切な労働時間管理、有給取得促進
- スキル開発支援:研修制度の充実、キャリア相談体制整備
- 法令順守の徹底:偽装請負防止、適切な契約管理
中長期的な改革の方向性
- IT業界特有の雇用形態に適した法制度の検討
- 多重下請け構造の適正化方策の研究
- エンジニアのキャリア形成支援制度の整備
- 業界標準的な労働条件ガイドラインの策定
経済産業省のDX推進政策と連動し、IT人材の労働環境改善は産業競争力向上の観点からも重要な課題として位置づけられています。
考察と今後の課題
SES雇用に関する問題は、法制度、市場構造、業界慣行が複雑に絡み合った構造的課題であると考えられます。
主要な課題の整理
- 派遣労働との法的保護格差の存在
- 多重下請け構造による複雑な利害関係
- 客先常駐による労働者の孤立化傾向
- IT業界の急速な変化への法制度の対応遅れ
今後の改善に向けた重要なポイント
- 多角的アプローチ:法制度、業界自主規制、企業取り組みの総合的推進
- 実態の継続的把握:定期的な労働実態調査と改善効果の検証
- 関係者の協力:政府、業界団体、労働組合、企業の連携強化
- 国際動向の参考:他国の制度や取り組みからの学習
IT産業は日本の経済成長にとって重要な分野であり、そこで働くエンジニアの労働環境改善は、産業全体の持続可能な発展のためにも必要不可欠です。
                継続的な課題:技術の進歩や働き方の多様化に対応した柔軟で適切な労働保護制度の確立は、今後も継続的に検討すべき重要な政策課題といえます。
            
        
            参考・免責事項
本記事は2025年9月19日時点の公開情報に基づいて作成されています。労働問題は個別の状況により異なるため、具体的な相談については労働基準監督署、労働組合、弁護士等の専門機関にご相談ください。記事内容は個人的な考察に基づくものであり、特定の企業や団体を批判する意図はありません。重要な判断については、複数の情報源を参考にし、自己責任で行ってください。
    本記事は2025年9月19日時点の公開情報に基づいて作成されています。労働問題は個別の状況により異なるため、具体的な相談については労働基準監督署、労働組合、弁護士等の専門機関にご相談ください。記事内容は個人的な考察に基づくものであり、特定の企業や団体を批判する意図はありません。重要な判断については、複数の情報源を参考にし、自己責任で行ってください。
コメント (0)
まだコメントはありません。