機械製図の寸法記入規則検討|JIS規格に基づく実践的な記入方法
機械製図の寸法記入規則検討|JIS規格に基づく実践的な記入方法
更新日:2025年12月13日
1. 寸法記入の基本原則
JIS B 0001:2019「機械製図」は、JIS Z 8310に基づき、機械工業の分野で使用する部品図及び組立図の製図について規定している。2019年5月の改正では、CADの使用に対応した寸法補助記号の追加や、国際規格との整合性向上が図られた。寸法記入は、設計者の意図を図面の読み手(加工者)に誤解なく伝達するための重要な要素であり、規定に沿った正確な記入が求められる。
1.1 寸法記入の構成要素
寸法の記入には、寸法線、寸法補助線、端末記号、寸法数値の4つの要素が用いられる。寸法線は対象物の長さや角度を示す線であり、寸法補助線は対象物と寸法線を結ぶ線である。端末記号は寸法線の両端に付与され、矢印、黒丸、斜線などの形式がある。寸法数値は寸法線の上または中央に配置される。
1.2 端末記号の種類と使用場面
端末記号は寸法線の終端を示す記号であり、JIS B 0001:2019では複数の形式が規定されている。図面全体で統一した記号を使用することが原則であるが、記入スペースの制約により異なる記号を併用する場合もある。
| 記号形式 | 形状 | 主な使用場面 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 矢印(塗りつぶし) | ▶ | 一般的な寸法記入 | 最も広く使用される標準形式 |
| 矢印(白抜き) | ▷ | 一般的な寸法記入 | CAD環境で使用可能 |
| 黒丸 | ● | 狭いスペースでの記入 | 矢印が入らない場合に使用 |
| 斜線 | / | 建築製図、狭いスペース | 45°の斜線を使用 |
| なし(原点記号) | ○ | 累進寸法の起点 | 2019年改正で追加 |
1.3 寸法記入の一般原則
JIS B 0001では、寸法記入に関する一般原則として複数の事項が規定されている。寸法は特に明記しない限りミリメートル単位で記入し、単位記号は省略する。寸法は重複して記入せず、機能上必要な寸法を優先して記入することが求められる。また、参考寸法や理論的に正確な寸法を除き、すべての寸法に対して許容限界を直接または一括して指示する必要がある。
2019年改正では、えんすい記号の追加、寸法線の末端記号の種類拡張、コンピュータによる文字フォント(CA形書体、CB形書体)の使用許可などが行われた。これらの改正は、CAD環境での製図作業を考慮したものである。
1.4 JIS B 0001:2010と2019の主要改正点比較
2019年の改正では、国際規格との整合性向上とCAD環境への対応が主な目的とされた。以下に主要な改正点を比較する。
| 項目 | 2010年版 | 2019年版 |
|---|---|---|
| 文字フォント | A形・B形書体 | A形・B形・CA形・CB形書体 |
| 寸法補助記号 | 従来記号のみ | えんすい記号追加 |
| 端末記号 | 矢印、黒丸、斜線 | 原点記号(○)追加 |
| 加工方法表記 | 日本語のみ | 英語表記も可能 |
| 理論的に正確な寸法 | 枠囲み表記 | 幾何公差との併記を明確化 |
| コントロール半径 | 規定なし | CR記号を追加 |
2. 寸法補助記号と具体的な記入方法
寸法補助記号は、寸法数値に付与することで寸法の形状的意味を明確にする記号である。JIS B 0001:2019では複数の寸法補助記号が規定されており、これらを適切に使用することで図面の簡略化と読みやすさの向上が実現できる。
2.1 主要な寸法補助記号一覧
| 記号 | 名称 | 読み方 | 用途 |
|---|---|---|---|
| φ | 直径 | まる、ふぁい | 円形状部の直径を示す |
| R | 半径 | あーる | 円弧の半径を示す |
| □ | 正方形の辺 | かく | 正方形の一辺を示す |
| Sφ | 球の直径 | えすまる | 球形状の直径を示す |
| SR | 球の半径 | えすあーる | 球形状の半径を示す |
| C | 面取り | しー | 45°の面取りを示す |
| t | 板厚 | てぃー | 薄板の厚さを示す |
| CR | コントロール半径 | しーあーる | なめらかに接続する半径を示す |
2.2 寸法補助記号の選定フロー
寸法補助記号の選定は、対象形状と図面上の表現方法に基づいて行う。以下に選定の判断フローを示す。
2.3 直径の記入方法
円形状部の直径は、寸法数値の前に記号φを付与して表示する。円を正面から見た投影図において直径寸法を指示する場合、寸法線の両端に端末記号が付くときはφを省略することがJISで認められている。ただし、実務においては明確性を優先してφを記入することが一般的である。円形を図示しない側面図や断面図では、必ずφを記入して円形であることを明示する必要がある。
2.4 半径の記入方法
円弧の半径は、寸法数値の前に記号Rを付与して表示する。半径を示す寸法線には、円弧側にのみ矢印を付け、中心側には付けない。円弧の中心位置を示す必要がある場合は、十字または黒丸でその位置を表示する。半径が大きく中心位置を示す必要がある場合、寸法線を折り曲げることが許容されるが、矢印の付いた部分は正しい中心方向を向いていなければならない。
2.5 面取りの記入方法
45°の面取りは、記号Cと寸法数値を用いて表示する。C2と記入した場合、45°の角度で2mmの面取りを行うことを意味する。45°以外の角度で面取りを行う場合は、角度と長さを個別に指示する必要がある。面取りは部品の安全性確保や組立性向上のために施される加工であり、設計意図に応じた適切な指示が求められる。
形状が円形である → 直径φまたは半径Rを使用
形状が球形である → 球の直径Sφまたは球の半径SRを使用
断面が正方形である → 正方形記号□を使用
45°の面取りである → 面取り記号Cを使用
板状部品の厚さである → 板厚記号tを使用
2.6 穴の表記方法
穴の寸法は、加工方法を明示することで記号を省略できる場合がある。加工方法の表記により、製造現場への指示がより明確になる。
| 加工方法 | 表記例 | 意味 | φ記号 |
|---|---|---|---|
| ドリル穴 | 5キリ | 直径5mmのドリル穴 | 省略 |
| ドリル穴(深さ指定) | 5キリ 深さ10 | 直径5mm、深さ10mmのドリル穴 | 省略 |
| リーマ穴 | φ10リーマ | 直径10mmのリーマ仕上げ穴 | 必要 |
| 座ぐり | 7キリ 座ぐりφ18 | φ7穴にφ18の座ぐり | 座ぐりに必要 |
| 深座ぐり | 7キリ 深座ぐりφ18 深さ5 | φ7穴にφ18、深さ5mmの座ぐり | 座ぐりに必要 |
| ざぐり(皿) | 5キリ 皿ざぐり90° φ10 | φ5穴に90°皿ざぐり | ざぐりに必要 |
| 複数穴 | 3×φ10 | 直径10mmの穴が3個 | 必要 |
| ねじ穴 | M8 深さ15 | M8ねじ、深さ15mm | 不要 |
3. 実践的な記入ポイントと考察
JIS規格に基づく寸法記入方法を理解した上で、実務において効果的な図面作成を行うためのポイントを整理した。規格の遵守と実践的な運用のバランスを取ることが、読みやすく誤解の少ない図面作成につながると考えられる。
3.1 よくある記入ミスと対策
寸法記入における典型的なミスとその対策について、正しい例と誤った例を対比して示す。
寸法記入における注意点
- 寸法の重複記入:同一寸法を複数箇所に記入すると、変更時の整合性維持が困難になる。基準面からの寸法を優先し、重複を避ける。
- 寸法補助記号の欠落:側面図や断面図でφを省略すると、直径か半径かの判断ができなくなる。形状が明確でない図では必ず記号を付与する。
- 寸法線の交差:寸法線同士の交差や、寸法線と寸法補助線の交差は避ける。読みやすさを優先した配置を心がける。
- 公差の指示漏れ:機能上重要な寸法には個別公差を、それ以外にはJIS B 0405に基づく普通公差を適用する旨を表題欄付近に明記する。
3.2 企業内製図標準の重要性
JIS B 0001はすべての詳細な製図ルールを規定しているわけではない。実務においては、企業ごとに詳細な寸法記入方法や作図方法が定められている場合が多い。社内で統一された製図標準が存在しない場合、設計者により表現方法が異なり、図面の品質にばらつきが生じる。新入社員、中途採用者、外部委託者を含む関係者全員が共通のルールに基づいて作図できる環境を整備することが重要である。
3.3 CAD環境における留意点
現代の製図作業はCADを用いて行われることが一般的である。2019年のJIS改正ではCAD使用に対応した規定の拡充が行われたが、CADの自動寸法機能に依存しすぎると、設計意図が適切に反映されない寸法配置になる場合がある。自動生成された寸法を鵜呑みにせず、機能上重要な寸法を優先して配置し、読み手にとって理解しやすい図面を作成することが求められる。
3.4 まとめ
機械製図における寸法記入は、JIS B 0001:2019に基づく規定を理解した上で、実務に即した運用を行うことが重要である。寸法補助記号の適切な使用は図面の簡略化と明確化に寄与し、設計意図の正確な伝達を可能にする。本記事で整理した内容が、機械製図を学ぶ方や図面作成ルールの見直しを検討されている方の参考になれば幸いである。製図規格は定期的に改正されるため、最新のJIS規格を確認しながら継続的な学習を行うことを推奨する。
本記事は2025年12月13日時点の情報に基づいて作成されています。JIS規格は改正される場合があるため、最新版の確認を推奨します。記事内容は個人的な考察に基づくものであり、専門的な判断については関連分野の専門家にご相談ください。実際の図面作成においては、所属組織の製図標準および最新のJIS規格に従ってください。
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