AGI実現予測考察|日米格差とSESエンジニアの生き残り戦略
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AGI実現予測と雇用への影響
主要AI企業が語る「1~5年以内」の衝撃
KDDI総合研究所の2025年4月の報告によると、世界のAI開発をリードする企業のトップが、驚くべき予測を相次いで発表しています。OpenAIのサム・アルトマンCEOは「2025年はAIエージェントが労働力に加わる最初の年になる」と述べ、Anthropicのダリオ・アモデイCEOは「1~2年の間に人間と同等以上のAIが実現される」と予測しています。
さらに、2024年にノーベル化学賞を受賞したGoogle DeepMindのデミス・ハサビス氏も「2030年までにAGIは実現されるだろう」と語っています。これらの予測は、かつてはSFの世界の話だったAGI(汎用人工知能)が、急速に現実のものとなりつつあることを示しています。
人間と同等、またはそれ以上の知的能力を持ち、多様な分野で人間が行う作業を行えるAIのこと。特定の業務に特化した従来のAI(弱いAI)とは異なり、あらゆる知的タスクをこなせる「強いAI」とも呼ばれています。
雇用への影響は避けられない
KDDI総合研究所の報告では、AGIが実現されれば政治、経済、社会、科学技術などあらゆる分野に甚大な影響を及ぼし、「大規模な雇用破壊」が懸念されると指摘されています。ただし、これはあくまで予測であり、実現時期や影響の程度については不確定要素が多いことに注意が必要です。
一方で、米労働省労働統計局(BLS)の2025年4月の分析では、より現実的な見通しが示されています。AI導入により「コンピュータ関連」の一部では雇用需要が高まる一方、「ビジネス・金融関連」では雇用需要が減少すると予測されています。特にソフトウェア開発者については、今後10年間で17.9%増加すると見込まれており、AI時代においても一定の需要が維持される職種があることが分かります。
AGIによる雇用への影響は、単純な「仕事が奪われる」という話ではなく、職種によって「増える仕事」と「減る仕事」が分かれるという、より複雑な変化が予測されています。
日本と海外のAI導入格差の実態
驚くべき日米の導入率の差
スタンフォード大学HAIの「AI Index Report 2025」を分析した第一生命経済研究所の報告によると、2024年時点でグローバル企業の78%がAIを業務に利用しています。これは前年の55%からの爆発的な増加です。
しかし、日本の状況は大きく異なります。Indeed とインディードリクルートパートナーズが2025年6月に発表した「AI活用に関する日米就業者調査」では、生成AIを業務に導入しているエンジニアの割合が、米国では7~9割に達する一方、日本では3~4割にとどまっています。エンジニア職に限ると、米国93.0%に対して日本は40.6%と、2倍以上の開きがあります。
2023年:グローバル企業55%がAI利用
2024年:グローバル企業78%がAI利用(前年比+23ポイント)
2025年:日本のエンジニア40.6%、米国93.0%(約2.3倍の格差)
なぜ日本は遅れているのか
第一生命経済研究所の分析によると、日本は「低い興奮・低い不安」の領域にプロットされ、AIに対して様子見、あるいは無関心な層が多いことが指摘されています。中国やインドネシアなどが「高い興奮・低い不安」でAIに極めて肯定的な姿勢を示すのとは対照的です。
IndeedとIRPの調査では、生成AIを導入しない理由として、日本では「どのように、どの業務に取り入れていいのか分からない」(21.4%)がトップでした。一方、米国では「業務に利用可能なAIは現在存在しない」(33.5%)が最多で、AIの性能を吟味した上で導入しないと判断している企業が多いことが分かります。この差は、日本企業が「分からないから導入しない」のに対し、米国企業は「判断した上で導入しない」という、意思決定の質の違いを示しています。
| 項目 | 日本 | 米国 |
|---|---|---|
| エンジニアのAI導入率 | 40.6% | 93.0% |
| 企業全体のAI利用率 | 55%程度 | 78% |
| 導入しない主な理由 | どう使うか分からない(21.4%) | 適切なAIがない(33.5%) |
効果実感でも大きな差
PwC Japanグループの「生成AIに関する実態調査2025春 5カ国比較」では、さらに深刻な問題が明らかになりました。日本企業はAI活用の推進度が平均的であるにもかかわらず、効果創出が低く、「期待を上回る」と回答した企業の割合は米国・英国の4分の1、ドイツ・中国の半分にとどまっています。
つまり、日本企業は導入が遅れているだけでなく、導入しても効果を十分に引き出せていないという二重の課題を抱えているのです。
SES・派遣エンジニアが生き残るための戦略
SES業界に迫る変化
エンジニアtypeの2025年1月の記事では、「セールスフォースが2025年はエンジニアを採用しない」というニュースが報じられたと紹介されています。CEOのMarc Benioff氏がAIプラットフォーム「Agentforce」の成功により、開発やサポート、テストなどを相当自動化できると語ったとされていますが、これは象徴的な発言として捉えるべきでしょう。
一部の専門家は、従来の「エンジニアを大量派遣してコードを書くだけ」というSESビジネスモデルは、AIプラットフォームによって人手が大幅に削減できる場面が増え、厳しくなる可能性が高いと指摘しています。実際、ラクス・パートナーズの2025年6月の調査では、現役エンジニアの約7割がキャリアに不安を感じており、特にWebエンジニア、インフラエンジニア、QAエンジニアで不安が高い状況です。
日本ではAI導入が遅れているため、短期的には大きな影響がないように見えるかもしれません。しかし、グローバル競争においては不利な立場に置かれ、長期的には確実に変化の波が押し寄せてくると考えられます。
生き残るエンジニアの条件
では、AI時代にエンジニアが生き残るためには何が必要なのでしょうか。複数の専門家の見解と調査結果から、以下のようなスキルが重要だと考えられます。
AI時代に求められる5つのスキル
- AI活用力とプロンプト設計力:AIを使いこなし、適切な指示を出せる能力。ラクス・パートナーズの調査では、約8割が「必要なスキルは変わる」と回答し、最も求められるのが「生成AI活用力」でした。
- 上流工程への対応力:要件定義やシステム設計など、AIが苦手とする領域でのスキル。米労働省の分析でも、これらの業務は引き続き人間が担うとされています。
- コミュニケーション能力:顧客のニーズを的確に捉え、技術仕様に落とし込む能力。チームマネジメントも含め、人間にしかできない役割として重要性が増しています。
- 複数技術領域への対応:特定の言語だけでなく、クラウド(AWS、GCP)やインフラなど、幅広い技術に対応できる総合力。
- ビジネス視点での判断力:単なる実装者ではなく、ビジネス課題を理解し、既存ソリューションを組み合わせて効率化を実現する「DXエンジニア」的な役割。
日本特有の課題とチャンス
日本のAI導入が遅れていることは、短期的には「変化が緩やか」という状況を生んでいます。しかし、これは決して安心材料ではありません。労働政策研究・研修機構(JILPT)の2025年の調査では、日本の労働者の約4人に1人(27.1%)が学び・学び直しに取り組んでいますが、そのうちAIを利用しながら働くための学習に取り組んだのはわずか6.9%です。
一方で、日本には製造・医療・介護・建設など「現場ノウハウが可視化しづらい産業領域」が多く、軽量AIを組み込み機器やオンプレ環境で動かし、現場最適化する姿勢は世界的に見てもユニークだとする見方もあります。半導体プロセス・ロボティクス・制御技術とAIを縦に統合する方向性なら、日本は十分勝負ができる可能性があります。
日本のエンジニアにとって重要なのは、「グローバルな変化」と「日本独自の強み」の両方を理解し、自分の立ち位置を明確にすることです。単純なコーディング作業に依存するのではなく、AI時代に価値を発揮できるスキルを意識的に磨いていくことが求められています。
今すぐ始められる3つのアクション
最後に、SESや派遣エンジニアが今日から始められる具体的なアクションをまとめます。
明日から始める生き残り戦略
- 生成AIを実際に使ってみる:ChatGPTやGitHub Copilotなどを業務で積極的に活用し、効果的なプロンプトの作り方を学ぶ。「使えるか使えないか」ではなく「どう使いこなすか」が重要です。
- 上流工程にチャレンジする:現在の業務がコーディング中心であれば、要件定義や設計レビューなど、上流工程に関わる機会を積極的に求める。顧客との直接のコミュニケーション経験も貴重です。
- 学び続ける習慣を作る:特定の技術だけでなく、クラウド、セキュリティ、データ分析など、周辺領域にも興味を広げる。資格取得支援制度があれば積極的に活用しましょう。
AI時代の変化を恐れず、現状に甘んじることなく、自身のできることを増やしていくことが、エンジニアとして長期的なキャリアを築く鍵となります。日本のAI導入が遅れている今だからこそ、先手を打って準備を始めることで、他のエンジニアと差をつけるチャンスとも言えるでしょう。
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