複利の数理|72の法則による資産倍増期間の推定
更新日:
複利とは何か - 単利との決定的な違い
複利の基本概念
複利とは、元本に対してだけでなく、得られた利息にも利息がつく仕組みです。一方、単利は元本にのみ利息がつきます。この違いは時間が経つほど大きくなります。
A = P(1 + r)n
A: 最終金額、P: 元本、r: 年利率(小数)、n: 年数
A = P(1 + rn)
単利は「1 + rn」と線形的に増えるのに対し、複利は「(1 + r)n」と指数的に増える
具体例で見る単利と複利の違い
100万円を年利5%で運用した場合を比較してみましょう。
| 年数 | 単利(万円) | 複利(万円) | 差額(万円) |
|---|---|---|---|
| 10年 | 150.0 | 162.9 | 12.9 |
| 20年 | 200.0 | 265.3 | 65.3 |
| 30年 | 250.0 | 432.2 | 182.2 |
| 40年 | 300.0 | 704.0 | 404.0 |
時間が経つほど、単利と複利の差は加速度的に広がります。40年後には2倍以上の差がつきます。これが「複利の魔法」と呼ばれる理由です。
アインシュタインは「複利は人類最大の発明」と言ったとされています(出典は不確かですが、複利の威力を表す言葉として広く引用されています)。
72の法則 - 暗算で分かる資産倍増の年数
72の法則とは
「72の法則」は、資産が2倍になる年数を簡単に計算できる近似式です。
資産が2倍になる年数 ≒ 72 ÷ 年利率(%)
例:年利6%なら、72 ÷ 6 = 12年で資産が2倍になる
72の法則の数学的背景
資産が2倍になる条件は以下の式で表されます:
P(1 + r)n = 2P
(1 + r)n = 2
両辺の対数をとると:
n × log(1 + r) = log 2
n = log 2 ÷ log(1 + r)
ここで、rが小さい時(例:年利10%以下)、以下の近似が成り立ちます:
log(1 + r) ≒ r ÷ ln(10)
したがって:
n ≒ (log 2 × ln 10) ÷ r ≒ (0.693 × 2.303) ÷ r ≒ 1.596 ÷ r
r(小数)を%表記にすると100倍になるため、分子も100倍して:
72は69.6に近く、かつ約数が多い(1, 2, 3, 4, 6, 8, 9, 12...)ため、暗算しやすい数字だからです。実用性を重視した結果、72が選ばれました。
72の法則の精度
| 年利率 | 実際の年数 | 72の法則 | 誤差 |
|---|---|---|---|
| 3% | 23.45年 | 24年 | +2.3% |
| 6% | 11.90年 | 12年 | +0.8% |
| 9% | 8.04年 | 8年 | -0.5% |
| 12% | 6.12年 | 6年 | -2.0% |
年利3%~12%の範囲では、誤差は3%以内と実用上十分な精度です。
実は「69の法則」が最も正確ですが、69は約数が少なく暗算しにくいため、「70の法則」や「72の法則」が実用的です。金融機関では「70の法則」を使うこともありますが、72の方が約数が多く便利なため、一般的には72が使われています。
実生活での活用 - 投資・借金・人生設計
投資での活用例
72の法則を使うと、投資の将来価値を瞬時に把握できます。
投資シミュレーション例
- 年利3%の定期預金:72 ÷ 3 = 24年で資産が2倍(100万円→200万円)
- 年利6%の投資信託:72 ÷ 6 = 12年で資産が2倍(100万円→200万円)
- 年利9%の株式投資:72 ÷ 9 = 8年で資産が2倍(100万円→200万円)
借入金における複利の影響
複利は投資だけでなく、借入金にも同様に作用します。特にリボルビング払いでは、複利効果により返済総額が急増します。
借入金の複利効果の例
- 年利15%のリボ払い:72 ÷ 15 = 4.8年で借金が2倍(100万円→200万円)
- 年利18%のカードローン:72 ÷ 18 = 4年で借金が2倍(100万円→200万円)
- 年利20%の消費者金融:72 ÷ 20 = 3.6年で借金が2倍(100万円→200万円)
借入金の場合、複利は債務者に不利に働きます。年利18%のカードローンを放置すると、わずか4年で元本が2倍になる計算です。これは投資の逆パターンとして理解する必要があります。
長期資産形成への応用
複利の効果を最大化するには、早期の投資開始と長期保有が重要です。
| 開始年齢 | 投資期間 | 月額投資 | 65歳時点の資産 |
|---|---|---|---|
| 25歳 | 40年 | 3万円 | 約2,800万円 |
| 35歳 | 30年 | 3万円 | 約1,500万円 |
| 45歳 | 20年 | 3万円 | 約730万円 |
上記は年利6%を想定した試算です。10年早く始めることで、最終資産額に約2倍の差が生じます。
インフレーションと複利
複利計算で見落とされがちなのが、インフレーションの影響です。
たとえば、年利6%で100万円を運用すると、1年後には106万円になります。しかし、同時にインフレ率が2%だった場合、物価が2%上昇しているため、106万円の実質的な価値は目減りしています。
名目年利6%で運用:100万円 → 106万円
インフレ率2%を考慮すると:
実質的な増加率 = (106 ÷ 102) - 1 = 約3.9%
つまり、名目上は6%増えても、物価上昇を考えると実質的には3.9%しか増えていない
名目年利6%でも、インフレ率が2%なら実質年利は約3.9%。72の法則で計算すると、72 ÷ 3.9 = 約18.5年。実質的に資産が2倍になるまで、名目計算よりも長い時間がかかります。長期投資ではインフレ率を考慮することが極めて重要です。
連続複利への拡張
複利計算は、計算頻度を無限に高めた極限として「連続複利」に拡張できます。
A = P × ert
e: ネイピア数(約2.718)、r: 年利率(小数)、t: 年数
連続複利における資産倍増期間は以下で求められます:
P × ert = 2P
ert = 2
両辺の自然対数をとると:
rt = ln 2
t = ln 2 ÷ r ≒ 0.693 ÷ r
これは「69.3の法則」とも呼ばれ、連続複利を仮定した場合の最も正確な近似値です。
複利を活用した資産形成の原則
- 早期開始の原則:時間が複利効果を最大化する最も重要な要素です。1年早く始めることで、数十万円単位の差が生じます。
- 定期積立の原則:一定額を継続的に投資することで、時間分散とドルコスト平均法の効果が得られます。
- 長期保有の原則:複利効果は時間の経過とともに加速します。短期的な価格変動に惑わされず、長期視点を維持することが重要です。
- コスト最小化の原則:運用コストや税金は複利効果を減少させます。低コストの金融商品を選択することで、実質リターンを向上できます。
- 分散投資の原則:単一資産への集中投資はリスクを高めます。資産クラスを分散することで、リスク調整後リターンを改善できます。
複利計算の実務的限界
複利計算の理論モデルは、実務において以下の制約を受けます。
理論上の複利計算は、利率が一定であることを前提としていますが、実際の金融市場では利率は変動します。また、税金、手数料、インフレーションなどの外部要因により、実質的なリターンは理論値を下回ることが一般的です。
したがって、72の法則は概算ツールとして有用ですが、精密な資産計画には詳細なシミュレーションが必要です。
結論
複利計算は指数関数的成長を記述する数学的モデルとして、金融実務において不可欠な概念です。72の法則は、この複雑な計算を暗算可能な形に単純化した実用的な近似式であり、年利3%~12%の範囲で高い精度を持ちます。
資産形成においては、複利効果を最大化するために早期開始と長期保有が重要です。一方で、借入金においては複利効果が債務者に不利に働くため、高金利の借入を避け、可能な限り早期返済することが賢明です。
複利の数理的理解は、個人の財務計画だけでなく、経済学、人口動態、技術普及など、指数関数的変化を伴う様々な現象の理解にも応用可能です。
コメント (0)
まだコメントはありません。