等比数列の和の公式証明考察2025
等比数列の和の公式証明考察2025
更新日:2025年10月19日
1. 小学生でも分かる:2倍ずつ増える不思議
折り紙を何度も折ると?
折り紙を思い浮かべてください。1枚の紙を半分に折ると、厚さは2倍になります。もう一度折ると、また2倍になって厚さは4倍。もう一度折ると8倍…というように、折るたびに厚さが2倍、2倍、2倍と増えていくのです。
では、折り紙を10回折ったら、厚さは何倍になるでしょう?
| 折数 | 厚さ(倍数) | 実際の厚さ |
|---|---|---|
| 0回 | 1倍 | 1 mm |
| 1回 | 2倍 | 2 mm |
| 2回 | 4倍 | 4 mm |
| 5回 | 32倍 | 32 mm |
| 10回 | 1024倍 | 1024 mm ≈ 1 m |
わずか10回折っただけで、1 mmの紙が1メートル近くになってしまいます。これが「2倍ずつ増える不思議さ」です。
毎日のお小遣いが倍になったら?
別の例を考えてみましょう。今日もらったお小遣いが100円だったとします。もし明日200円、その次の日400円…と毎日倍になるとしたら?
| 日付 | その日のお小遣い |
|---|---|
| 1日目 | 100円 |
| 2日目 | 200円 |
| 3日目 | 400円 |
| 5日目 | 1,600円 |
| 10日目 | 51,200円 |
10日間でもらえたお金の合計は?1日目から10日目までのお金をすべて足すと…
100 + 200 + 400 + 800 + 1,600 + 3,200 + 6,400 + 12,800 + 25,600 + 51,200 = 102,300円
計算するのは大変ですよね。しかし、数学者たちが考えた「かしこい計算方法」があります。それが今から学ぶ「等比数列の和の公式」です。
順から足す方法と逆から足す方法
100円、200円、400円…と足していくことは大変ですが、もし逆から足すと?ここで重要な工夫が生まれます。
順から足す:100 + 200 + 400 + 800 + ...
逆から足す:51,200 + 25,600 + 12,800 + 6,400 + ...
この2つを縦に足すと、特定のパターンが現れます。中学生向けの説明では、この工夫を数学的に表現します。
2. 中学生向け:数で表す等比数列
等比数列とは何か
等比数列とは、「隣同士の数の関係が同じ」な数列のことです。小学生の例では、「毎回2倍になる」が「隣同士の関係」でした。
例えば、2, 6, 18, 54, 162... という数列を見てください。それぞれの比を調べると:
- 2から6へ:2 × 3 = 6
- 6から18へ:6 × 3 = 18
- 18から54へ:18 × 3 = 54
毎回「3倍」になっていますね。この「3」を「公比」と呼び、通常 \(r\) という文字で表します。
最初の数を \(a\) とすると、等比数列は次のように表せます:
第1項:\(a\) = 2
第2項:\(a \times r\) = 2 × 3 = 6
第3項:\(a \times r^2\) = 2 × 9 = 18
第4項:\(a \times r^3\) = 2 × 27 = 54
つまり、第 \(n\) 項は:\(a_n = a \times r^{n-1}\)
「足す」を数式で表す
最初の \(n\) 個の数を全部足したものを \(S_n\) と呼びます(\(S\) は「Sum=合計」の頭文字)。
小学生の例:100 + 200 + 400 + 800 + ... + 51,200
数式で表すと:
$$S_n = a + ar + ar^2 + ar^3 + \cdots + ar^{n-1}$$
「r倍のトリック」で計算を簡単に
ここからが大事な工夫です。式全体に \(r\) を掛けてから、元の式から引きます。
式(1):\(S_n = a + ar + ar^2 + ar^3 + \cdots + ar^{n-1}\)
式(2):\(rS_n = ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + \cdots + ar^n\)
式(1)から式(2)を引くと、中間の項がすべて消えます(これを「テレスコープ」と呼びます):
$$S_n - rS_n = a - ar^n$$ $$\left(1 - r\right)S_n = a\left(1 - r^n\right)$$
\(r \neq 1\) のとき、両辺を \((1 - r)\) で割ると:
$$S_n = \frac{a(1 - r^n)}{1 - r}$$
これが「等比数列の和の公式」です。この公式の最大の工夫は、「r倍して、元の式から引く」というシンプルな技法です。このため、多くの項が相殺され、最初と最後の項だけが残るのです。
実際に試してみよう
小学生の例:100, 200, 400, 800... を10項足した合計
ここで \(a = 100, r = 2, n = 10\)
$$S_{10} = \frac{100(1 - 2^{10})}{1 - 2} = \frac{100(1 - 1024)}{-1} = \frac{-102,300}{-1} = 102,300$$
さっき地道に足した 102,300円と同じ答えが、公式で瞬時に出ました!
練習問題:2, 6, 18, 54... の最初の5項の合計
\(a = 2, r = 3, n = 5\) を代入すると:
$$S_5 = \frac{2(1 - 3^5)}{1 - 3} = \frac{2(1 - 243)}{-2} = \frac{-484}{-2} = 242$$
検算:2 + 6 + 18 + 54 + 162 = 242 ✓
もし \(r = 1\) なら、すべての項が同じ数になります。例えば、5 + 5 + 5 + 5 + 5 = 25 のように、\(S_n = na\) になります。公式の分母が0になるため、この場合は別に考える必要があります。
3. 高校生向け:公式の厳密な証明
等比数列の定義と第n項の公式
等比数列 \(\{a_n\}\) とは、隣接する2項の比が常に一定である数列である。この一定の比を公比 \(r\) と呼ぶ。
$$a_n = a \cdot r^{n-1}$$
これは以下の漸化式を満たす:\(a_n = r \cdot a_{n-1}\)
和の公式の導出(r ≠ 1)
等比数列の最初の \(n\) 項の和を \(S_n\) とする:
$$S_n = a + ar + ar^2 + ar^3 + \cdots + ar^{n-1} \quad \cdots (1)$$
式(1)の両辺に \(r\) を掛けると:
$$rS_n = ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + \cdots + ar^n \quad \cdots (2)$$
(1) − (2) を計算すると、大多数の項が相殺される(テレスコーピング):
$$S_n - rS_n = a - ar^n = a(1 - r^n)$$ $$(1 - r)S_n = a(1 - r^n)$$
\(r \neq 1\) のとき、両辺を \((1 - r)\) で除して:
$$S_n = \frac{a(1 - r^n)}{1 - r}$$
別表現として、分子・分母に −1 を掛けると:
$$S_n = \frac{a(r^n - 1)}{r - 1}$$
これらは形式上異なるが、数学的に同一である。通常、\(r > 1\) のときは後者を用い、\(r < 1\) のときは前者を用いる。
無限等比級数(|r| < 1)
項数 \(n\) を無限大に取った場合の和を考える:
$$S = \lim_{n \to \infty} S_n = \lim_{n \to \infty} \frac{a(1 - r^n)}{1 - r}$$
\(|r| < 1\) のとき、\(\lim_{n \to \infty} r^n = 0\) であるから:
$$S = \frac{a}{1 - r} \quad (|r| < 1)$$
例:\(a = 1, r = 0.5\) の場合、\(S = \frac{1}{0.5} = 2\)。実際に \(1 + 0.5 + 0.25 + 0.125 + \cdots\) は2に収束する。
一方、\(|r| \geq 1\) のとき、級数は発散する。この級数の収束性は、複素解析やフーリエ解析など、高度な数学分野で重要な役割を果たす。
実用的応用と関連分野
等比数列の和の公式は、以下の分野で本質的な役割を果たす:金融数学における複利計算と年金現価計算、確率論における幾何分布と期待値計算、解析学におけるべき級数とフーリエ級数、物理学における減衰振動と放射性崩壊、コンピュータ科学におけるアルゴリズムの複雑性分析。
4. 実生活での応用
複利計算
初期投資 \(P\) 円、年利率 \(r\)、年数 \(n\) のとき、1年ごとの資産額は公比 \((1 + r)\) の等比数列をなす。毎年一定額を投資し続ける場合の総資産は、等比数列の和の公式で計算される。
例:毎年100万円を投資、年利10%で運用(10年)
1年目の投資は10年後に \(100 \times 1.1^9\) になり、2年目は \(100 \times 1.1^8\)、以下同様に続く。総額は:
総額 = \(100(1.1^9 + 1.1^8 + \cdots + 1.1^0) = 100 \times \frac{1.1^{10} - 1}{1.1 - 1} \approx 1,594\) 万円
感染症の拡大モデル
基本再生産数が \(R_0\) のとき、各世代の感染者数は \(N_0 R_0^n\) となり、等比数列を形成する。初期段階で治療による除外を考慮しない場合、総感染者数は等比級数で表される。この数学的理解は、公衆衛生政策の策定に不可欠である。
放射性物質の減衰
半減期を \(T\) とすると、時間 \(t\) 後の残存量は \(N(t) = N_0 \times (0.5)^{t/T}\)。一定間隔での測定値は公比 \((0.5)^{\Delta t/T}\) の等比数列となり、環境科学や考古学における年代測定に応用される。
ウイルスマーケティング
1人が平均 \(k\) 人にシェアする場合、\(n\) 世代後のリーチ数は \(N_0 k^n\)。初期投稿から \(n\) 世代までの総リーチは等比級数で計算され、ソーシャルメディア戦略の設計に用いられる。
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