期待値で考える意思決定|保険・投資・日常の選択を数学で判断する
期待値で考える意思決定|保険・投資・日常の選択を数学で判断する
更新日:2025年10月16日
期待値とは何か?
期待値の基本的な考え方
期待値とは、確率を考慮した「平均的な結果」を表す数値です。数学的には次のように定義されます。
期待値 = (結果1 × 確率1) + (結果2 × 確率2) + ... + (結果n × 確率n)
式で表すと:$$E(X) = \sum_{i=1}^{n} x_i \cdot p_i$$
シンプルな例:サイコロを振る
サイコロを1回振ったときの出る目の期待値を計算してみましょう。
各目が出る確率はそれぞれ $\frac{1}{6}$ なので:
$$E = 1 \times \frac{1}{6} + 2 \times \frac{1}{6} + 3 \times \frac{1}{6} + 4 \times \frac{1}{6} + 5 \times \frac{1}{6} + 6 \times \frac{1}{6}$$
$$E = \frac{1+2+3+4+5+6}{6} = \frac{21}{6} = 3.5$$
期待値3.5という結果は「実際には出ない目」ですが、何度も繰り返したときの平均的な値を表しています。これが期待値の本質です。
保険の意思決定
医療保険に入るべきか?
具体的な数値例で考えてみましょう。
年間保険料:3万円
入院時の給付金:50万円
1年間で入院する確率:5%(0.05)
保険に加入した場合の期待値:
| 状況 | 確率 | 収支 | 期待値への寄与 | 
|---|---|---|---|
| 入院する | 5% | +50万円 - 3万円 = +47万円 | +2.35万円 | 
| 入院しない | 95% | -3万円 | -2.85万円 | 
| 期待値(合計) | -0.5万円 | ||
$$E = 0.05 \times 47 + 0.95 \times (-3) = 2.35 - 2.85 = -0.5 \text{万円}$$
数学的には年間5,000円の損失が期待されます。しかし、これは「保険に入るべきでない」という結論ではありません。50万円という大金を突然失うリスクを月2,500円で回避できる「安心料」としての価値があります。
延長保証は得か?
10万円の家電製品に5,000円の延長保証をつけるべきか考えてみましょう。
延長保証の期待値計算
- 保証料:5,000円
- 故障時の修理費:平均3万円
- 故障確率:10%程度
$$E = 0.1 \times 30,000 + 0.9 \times 0 - 5,000 = 3,000 - 5,000 = -2,000\text{円}$$
期待値で見ると2,000円の損失ですが、3万円の突然の出費を避けたい場合は加入する価値があるかもしれません。
投資の判断
リスクとリターンの関係
投資商品Aと商品Bを比較してみましょう。
| 商品 | シナリオ | 確率 | リターン | 
|---|---|---|---|
| 投資A (安定型) | 成功 | 80% | +5% | 
| 失敗 | 20% | -2% | |
| 投資B (ハイリスク) | 成功 | 40% | +20% | 
| 失敗 | 60% | -10% | 
投資Aの期待値:
$$E_A = 0.8 \times 5 + 0.2 \times (-2) = 4 - 0.4 = 3.6\%$$
投資Bの期待値:
$$E_B = 0.4 \times 20 + 0.6 \times (-10) = 8 - 6 = 2\%$$
投資Aの方が期待値は高いですが、投資Bは成功時のリターンが大きいため、リスクを取れる人には魅力的かもしれません。期待値だけでなく、最悪のケース(-10%)も考慮する必要があります。
「確実な3%」vs「50%の確率で10%」
100万円の投資で2つの選択肢があります。
選択肢の比較
- 選択肢A:確実に3万円の利益(+3%)
- 選択肢B:50%の確率で10万円、50%の確率で0円
選択肢Bの期待値:
$$E_B = 0.5 \times 100,000 + 0.5 \times 0 = 50,000\text{円}$$
期待値では選択肢B(5万円)の方が有利ですが、確実性を重視するなら選択肢A(3万円)を選ぶ人も多いでしょう。これは「リスク回避傾向」と呼ばれる心理です。
日常の選択と期待値思考
傘を持つべきか?
降水確率30%の日、傘を持つべきでしょうか?
傘を持つ手間:不便度 -5ポイント
雨に濡れる損失:不快度 -50ポイント
| 選択 | 雨が降る(30%) | 雨が降らない(70%) | 期待値 | 
|---|---|---|---|
| 傘を持つ | -5(手間のみ) | -5(手間のみ) | -5 | 
| 傘を持たない | -50(濡れる) | 0(快適) | -15 | 
$$E_{\text{持つ}} = 0.3 \times (-5) + 0.7 \times (-5) = -5$$
$$E_{\text{持たない}} = 0.3 \times (-50) + 0.7 \times 0 = -15$$
期待値で見ると、傘を持つ方が損失が小さいため、降水確率30%でも傘を持つのが合理的という結論になります。
複数ルートの選択
会社に行くのに2つのルートがあります。
ルートの比較
- ルートA:通常30分、渋滞時50分(渋滞確率20%)
- ルートB:常に40分(渋滞なし)
ルートAの期待時間:
$$E_A = 0.8 \times 30 + 0.2 \times 50 = 24 + 10 = 34\text{分}$$
ルートBの期待時間:
$$E_B = 40\text{分}$$
期待値ではルートAが有利ですが、遅刻できない重要な日にはルートB(確実性)を選ぶべきかもしれません。
期待値思考の実践
日常で期待値を使う3つのステップ
- ステップ1:選択肢を明確化する:取りうる行動を具体的にリストアップ
- ステップ2:確率と結果を推定する:それぞれの確率と結果を数値化(概算でOK)
- ステップ3:期待値を計算し比較する:最も期待値が高い選択肢を基本とする
期待値思考は「正解を出す魔法」ではありません。しかし、感覚だけでなく数字で考えることで、より客観的で納得のいく意思決定ができるようになります。
まとめ
期待値という数学的な考え方は、保険、投資、日常の小さな選択まで、あらゆる意思決定に応用できます。重要なのは、期待値だけでなく「最悪のケース」「確実性の価値」「自分のリスク許容度」も考慮することです。
完全に数字だけで割り切れない部分もありますが、期待値を知った上で判断することで、より合理的で後悔の少ない選択ができるでしょう。この考え方が皆さんの日常の意思決定に役立てば幸いです。
本記事は2025年10月16日時点の情報に基づいて作成されています。記事内容は個人的な考察に基づくものであり、投資や保険に関する専門的な判断については、ファイナンシャルプランナーや専門家にご相談ください。重要な金融判断については、複数の情報源を参考にし、自己責任で行ってください。
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