Vibe Codingとは何か
概要
Vibe Coding(バイブコーディング)とは、2025年2月にAndrej Karpathyが提唱した、AIに自然言語で指示を与えてコードを生成させる開発アプローチです。Collins Dictionaryの「2025年の言葉」に選出され、Wikipedia、Merriam-Websterにも登録されるなど、社会的認知を得ました。
ただし、提唱者自身を含む多くの専門家が、本番環境への適用には重大なリスクがあると警告しています。2025年後半には業界の関心は「Context Engineering」へと移行しつつあります。
歴史的経緯
公式定義
Wikipedia(英語版)による定義
"Vibe coding is a chatbot-based approach to programming, where a developer describes a project to a large language model chatbot, which then generates the source code. The developer does not review or edit the code, but solely uses tools and execution results to evaluate it."
(Vibe codingはチャットボットベースのプログラミングアプローチで、開発者がLLMチャットボットにプロジェクトを説明し、それがソースコードを生成する。開発者はコードをレビューも編集もせず、ツールと実行結果のみで評価する。)
"There's a new kind of coding I call 'vibe coding', where you fully give in to the vibes, embrace exponentials, and forget that the code even exists."
— Andrej Karpathy, X/Twitter, 2025年2月
Andrej Karpathyについて
Vibe Codingの提唱者であるAndrej Karpathyは、AI分野における著名な研究者・エンジニアです。
- OpenAI共同創設者の一人(2015年設立時)
- Tesla AI/Autopilotディレクター(2017-2022年)
- スタンフォード大学でコンピュータビジョンの博士号取得(Fei-Fei Li指導)
- YouTubeチャンネルでの深層学習講座が人気
彼の発言は技術コミュニティで大きな影響力を持ちますが、Vibe Codingについては本人も「週末プロジェクト用」と位置づけている点に注意が必要です。
統計データ(2025年)
従来の開発との比較
| 観点 | 従来の開発 | Vibe Coding | AI協調開発(推奨) |
|---|---|---|---|
| コード作成 | 開発者が手動で記述 | AIが生成、人間は指示のみ | AIが生成、人間がレビュー・修正 |
| コード理解 | 詳細まで理解が必須 | 理解不要(定義上) | 動作原理を理解 |
| 品質保証 | 開発者が責任を持つ | AIへの信頼に依存 | 人間が最終責任を持つ |
| 適用場面 | あらゆる開発 | プロトタイプ、学習用 | 本番開発を含む全場面 |
批判と警告
⚠️ 専門家からの警告
Karpathy自身の発言
- 「週末の使い捨てプロジェクト用」(throwaway weekend projects)と明言
- 後に自身のプロジェクト(Nanochat)では手書きコードに戻ったと発表
Andrew Ng(スタンフォード大学教授)
- 「若いエンジニアにAIが対応するからプログラミングを学ぶ必要はないと言うのは、最悪のキャリアアドバイス」
- 「全員がコーディングを学ぶべき」
Simon Willison(データサイエンティスト)
- 「Vibe codingで本番コードベースを作るのは明らかにリスクが高い」
- 重要な定義:「AIが全行を書いても、レビュー・テスト・理解すればVibe Codingではない」
セキュリティ事例
- Lovable:1,645アプリ中170件(10.3%)にセキュリティ脆弱性
- SaaStr創業者:Replit AIエージェントが指示なくDB削除
Context Engineeringへの進化
2025年後半の業界動向
MIT Technology Review(2025年11月)によれば、業界は「緩い雰囲気ベースのアプローチ」から「AIがコンテキストを処理する方法を管理する体系的アプローチ」へと移行しています。
Context Engineeringとは、Karpathy自身が定義した新しい概念で:
"the delicate art and science of filling the context window with just the right information for the next step"
(次のステップに必要な適切な情報でコンテキストウィンドウを満たす繊細な技術と科学)
Thoughtworks Technology Radar Vol.32でも、この移行が取り上げられています。
本サイトの立場
本サイトでは、Vibe Codingを歴史的な文脈として紹介しつつ、実際の開発には以下のアプローチを推奨します:
- Human-AI協調開発 — AIを有能なパートナーとして活用しながら、人間が理解と責任を保持
- Context Engineering — 体系的なコンテキスト管理によるAI活用
- コードレビューの徹底 — AI生成コードであっても必ず人間がレビュー
- 継続的な学習 — 基礎的なプログラミング能力の維持・向上
参考文献
- Wikipedia "Vibe coding" (英語版)
- Collins Dictionary "Word of the Year 2025"
- MIT Technology Review "From vibe coding to context engineering" (Nov 2025)
- Fast Company "Vibe Coding Hangover" (Sep 2025)
- Thoughtworks Technology Radar Vol.32