1. ニューラルネットワークとは
基本概念
ニューラルネットワークは、人間の脳の神経細胞(ニューロン)の働きを模倣したコンピュータモデルです。複数の人工ニューロンを相互に接続し、入力から出力への複雑な変換を学習します。
生物学的インスピレーション
人間の脳には約1000億個のニューロンがあり、それぞれが数千から数万の他のニューロンと接続しています。この巨大なネットワークが、学習、記憶、判断などの複雑な認知機能を実現しています。
人工ニューラルネットワークの特徴
- 並列処理による高速計算
- 非線形な関係の学習能力
- ノイズに対する頑健性
- 汎化能力(未知のデータへの対応)
- 学習による性能向上
2. ニューロンの仕組み
人工ニューロンの構造
人工ニューロンは以下の要素から構成されます:
入力(Input)
他のニューロンや外部からの情報を受け取ります。
重み(Weight)
各入力の重要度を表す数値です。学習により調整されます。
バイアス(Bias)
ニューロンの発火しやすさを調整するパラメータです。
活性化関数(Activation Function)
入力の総和を出力に変換する関数です。
計算プロセス
- 各入力に重みを掛けて合計
- バイアスを加算
- 活性化関数を適用
- 結果を出力
主な活性化関数
シグモイド関数
出力を0から1の範囲に変換します。
- 利点:滑らかで微分可能
- 欠点:勾配消失問題
ReLU(Rectified Linear Unit)
負の値を0に、正の値はそのまま出力します。
- 利点:計算が簡単、勾配消失しにくい
- 欠点:負の領域で勾配が0
tanh(ハイパボリックタンジェント)
出力を-1から1の範囲に変換します。
- 利点:シグモイドより勾配が大きい
- 欠点:依然として勾配消失問題
3. ネットワーク構造
層構造
入力層(Input Layer)
外部からのデータを受け取る層です。
- ニューロン数:入力データの次元数
- 役割:データの受け取りと正規化
隠れ層(Hidden Layer)
入力と出力の間で計算を行う層です。
- 複数層を持つことが可能
- 各層で異なる特徴を抽出
- 深い層ほど抽象的な特徴を学習
出力層(Output Layer)
最終的な結果を出力する層です。
- ニューロン数:出力の種類数
- 分類:クラス数分のニューロン
- 回帰:通常1個のニューロン
接続パターン
全結合(Fully Connected)
各層のすべてのニューロンが次の層のすべてのニューロンと接続
畳み込み接続
局所的な領域のニューロンと接続(CNN)
再帰接続
自分自身や前の層への接続(RNN)
4. 学習プロセス
誤差逆伝播法(Backpropagation)
ニューラルネットワークの最も重要な学習アルゴリズムです。
学習の流れ
- 順伝播:入力から出力へデータを伝播
- 誤差計算:予測値と正解値の差を計算
- 逆伝播:誤差を出力層から入力層へ逆算
- 重み更新:誤差に基づいて重みを調整
損失関数
予測の正確さを測る指標です。
分類問題
- 交差エントロピー損失
- ソフトマックス交差エントロピー
回帰問題
- 平均二乗誤差(MSE)
- 平均絶対誤差(MAE)
最適化手法
勾配降下法
最も基本的な最適化手法
確率的勾配降下法(SGD)
ランダムなサンプルで重みを更新
Adam
適応的学習率を使用する手法
5. 主要なタイプ
多層パーセプトロン(MLP)
最も基本的なニューラルネットワーク
特徴
- 全結合層のみで構成
- 様々な問題に適用可能
- 理解しやすい構造
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)
画像認識に特化したネットワーク
特徴
- 畳み込み層とプーリング層
- 局所的な特徴を抽出
- 平行移動に対する不変性
再帰ニューラルネットワーク(RNN)
時系列データに特化したネットワーク
特徴
- 過去の情報を記憶
- 可変長の入力に対応
- 勾配消失問題が発生しやすい
Long Short-Term Memory(LSTM)
RNNの改良版
特徴
- 長期記憶の保持
- 勾配消失問題の緩和
- ゲート機構による制御
6. 応用分野
画像認識
- 物体検出・分類
- 顔認識
- 医療画像診断
- 自動運転車の視覚システム
自然言語処理
- 機械翻訳
- 感情分析
- 文章生成
- 質問応答システム
音声処理
- 音声認識
- 音声合成
- 音楽生成
- 音声感情認識
ゲーム・制御
- ゲームAI
- ロボット制御
- 自動運転
- 金融取引
創薬・医療
- 新薬候補の発見
- 病気の診断支援
- 遺伝子解析
- 個別化医療
まとめ
ニューラルネットワークは、人間の脳の仕組みを模倣した強力な機械学習手法です。単純な人工ニューロンを多数組み合わせることで、複雑なパターン認識や予測が可能になります。
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)や再帰ニューラルネットワーク(RNN)など、問題に応じた様々な構造が開発されており、画像認識、自然言語処理、音声処理など幅広い分野で実用化されています。現在のAIブームの中核を成す技術です。